●没個性化ではなく、車種ごとに最適なデザインを目指すトヨタ
グローバル共通プラットフォームの採用でスポーティなスタイルを手に入れつつ、国内市場にも配慮した新型カローラ。そのデザインの意図はどこにあるのか、担当デザイナーの高澤氏と梶田氏に話を聞いてみました。
── 最初の質問です。今回新型は海外仕様に準じるスタイルとなりましたが、そもそもグローバル視点ではカローラのデザインをどう捉えていたのでしょう?
「基本的にはスポーティな佇まいです。とくに、先代の11代目では国内仕様に比べてその傾向が明快でした。今回、グローバルで車台が統一されたことに伴い、シリーズ統一デザインとして「シューティング・ロバスト(勢いのある力強さ)」というテーマを設定。ダイナミックさとたくましさを打ち出すこととしました」
── 新型の「顔」は最近のトヨタ車そのものですが、このキーンルックがいまのトヨタを代表する表現なのでしょうか?
「難しい質問ですね……キーンルックやアンダープライオリティはスポーティで低重心を表現する手法ですが、たとえばツリ目が前提だとか、台形に細かな制約があるということではなく、車種ごとに個性を出すことは可能です。新型は、先代の主購入層である60代から30~40代にターゲットをシフトしましたが、そのための個性を追求した造形ということですね。もちろん、キーンルックとして、造形がある領域内に収まることは否定しません」
── 細部の話に移ります。フロントバンパーを包み込むようなフェンダーからの流れは何を示しているのでしょう?
「アンダープライオリティの表現では、台形グリルが前に突き出た格好になります。幅の広い「スポーツ」では、フェンダーからより大きな流れを作って、その中にグリルを内在させる表現にしました。一方で、全幅を削った「セダン」と「ツーリング」は、フェンダー面の一部でグリルを包み込むことにより同様の効果を狙ったわけです」
── 「セダン」のサイドウインドウでは、前だけでなく後端にも黒の樹脂パネルを付けていますが、どのようなキャビン形状を目指したのですか?
「もちろん「伸びやかさ」です。前後ともにパネルを付けてキャビンを長く見せ、同時にリアへ抜けるような勢いも出す。後端をボディパネルにするとコンパクトさは出せるのですが、リアピラーが太くなることでラグジュアリー感が増してしまい、新型の狙いとはズレてしまうのです」
── 「ツーリング」のリアパネルには、「スポーツ」を含め最近のトヨタ車に見られるハの字のラインが引かれています。安定感などの意図は分かりますが、少々説明的に過ぎませんか?
「たしかにリアビューの安定感や踏ん張り感を出すことも目的ですが、ハの字の両端がリアバンパーを「分割」することで、リアのオーバーハングを短く、かつ軽く見せる効果もあります。さらに、かつての横型バンパーの名残とは異なる、新しいリアの見せ方を模索する意図もあります」
── インテリアは先行した「スポーツ」に準じますが、要素だけでなく素材やカラーも抑え気味です。広い表皮面は、勢いツートンカラーなどにしそうなところですが…
「たしかに当初はさまざまな案がありましたが、とにかく樹脂部分を可能な限り減らすことで新しい表現を模索しました。「間と密」がキーワードですが、広くすっきりした部分は上質感のある素材を使い、機能部分はギュッと凝縮させる。エクステリアと同じく、これ見よがしな表現は避けたかったわけです」
── 最後に、鋭い顔にシャープなボディといった造形は、突き詰めるほど個性を薄めて行く危険性を感じます。トヨタのスポーティさは今後どこに向かうのでしょう?
「たとえば、レクサスはスピンドルグリルのような強い記号性が個性に直結していますが、トヨタブランドの場合は車種ごとのパッケージの中で出す面や線自体で個性を出すのだと思います。キーンルックやアンダープライオリティは、そうした個性に対応するある種の「緩さ」を持っていて、今後も幅のあるデザイン展開が可能だと認識しています」
── 決してどの車種もが似たようなスタイルになるワケではないということですね。今後のトヨタ車の幅広い造形に注目したいと思います。本日はありがとうございました。
[語る人]
トヨタ自動車株式会社
Mid-size Vehicle Company MSデザイン部
主幹 高澤達男 氏
グループ長 梶田正道 氏
(インタビュー・すぎもと たかよし)