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■乗員から歩行者まで、道路上のすべての人々の安全に寄与するZFの統合安全技術
●ハンドル&ブレーキを自動で操作する衝突回避システム
ドイツのメガサプライヤー、ZFが取り組んでいるプロジェクトの一つに「統合安全技術」があります。これは新技術の開発を通して、クルマの乗員だけでなく歩行者も含めたすべての道路使用者の安全性向上に寄与するのが目的です。
統合安全技術は、事故を可能な限り未然に防ぐ「アクティブセーフティ」と、事故が不可避となった際にダメージを最小限に抑える「パッシブセーフティ」という二方向の安全技術から成り立っています。
アクティブセーフティを改善させるべく、ZFが開発中なのが「自動フロント衝突回避システム(Automated Front Collision Avoidance)」です。ドライバーによる運転では前方衝突事故の回避が間に合わないと判断した場合、急ブレーキが可能か、回避するスペースがあるかを判断して、自動的に回避行動を行うというものです。
図をご覧ください。前方を走っていたトラックが急に車線変更をしたら、渋滞車両が目前に迫っていたのに気がついた、という状況があったとします。中央車線はNG、左側車線も後方から車両が迫っていてNG、右側車線は回避スペースがあるのでOK、と瞬時に判断した上で、ハンドル&ブレーキをドライバーの代わりに操作してくれます。
このシステムを、ZFがドイツ・ドレスデンで開催した「ZF Global Technology Day 2019」で体験することができました。
デモカーにはVR用ゴーグルを装着して、助手席に座りました。実際にクルマが走行すると、それに従ってCGの景色も流れていきます。そして、スクリーン上で障害物が目の前まで近づいてきたところで、クルマが急ハンドルを切って衝突を回避してくれました。
また、コーナリング中の自動ブレーキ技術も開発中とのこと。既存の自動ブレーキは直線でのみ作動しますが、新たな自動ブレーキ技術では、交差点での右左折時に歩行者が飛び出してきたような状況でも有効です。実際に、実際に歩行者を模した人形を使ったデモでは、ステアリングを切った状態でもスムーズかつ急速に自動ブレーキが作動することを確認することができました。
●死亡事故の3分の1を占める側突事故に有効な外部サイドエアバッグ
一方、パッシブセーフティの面で大いに役立ってくれそうなのが、クルマのボディの外側に展開するサイドエアバッグです。
ドイツで発生した乗用車の死亡事故のうち、約3分の1(年間およそ700人)が側面衝突によるものだそうです。どうして側面衝突事故が危険なのかというと、前後方向に比べてクラッシャブルゾーンが小さいからにほかなりません。
そこでZFは、新たなプリクラッシュ・セーフティシステムを開発しています。それが、衝突の数ミリ秒前に展開するという世界初の外部サイドエアバッグです。
この「プリクラッシュ・エクスターナル・サイドエアバッグ・システム」の開発において課題だったのが、「衝突が起こる前」にエアバッグを的確に展開させることです。
クルマにはカメラ、レーダー、ライダーなどネットワーク化されたセンサーが搭載されています(ちなみに「ライダー(LiDAR)はレーザー光を照射して、対象物までの距離や性質を測定するセンサーのこと)。それらの車載センサーによって衝突が迫っているいことが検知されると、「衝突は不可避か?」「不可避だとして、エアバッグの展開は可能か?」「展開できたとして、それは有効か?」といった条件をシステムのソフトウェアに採用されているアルゴリズムが判定します。その結果、「エアバッグの展開が有効」と判断されると、サイドスカートに内蔵されたエアバッグを作動させるのです。
実際に外部サイドエアバッグが展開するデモを見ることができました。
肉眼だとスピードが速すぎて、まるでぶつかってからエアバッグが開いているかのように見えました。が、連続写真を見てみると、確かに衝突のごく直前にエアバッグが開いているのが確認できます。
エアバッグの容量は車両により異なりますが、運転用エアバッグの5~8倍に当たる280~400Lになるとのこと。これだけ大きなエアバッグが、およそ150ミリ秒(瞬きの時間に相当)というごく短時間で展開されるというのですから驚きです。
ZFでは、この外部サイドエアバッグのおかげで、側面衝突事故で乗員が受けるダメージは最大40%軽減されるとアナウンスしています。
ZFがこうした統合安全技術の開発で他社をリードできているのは、ZFがセンサー類や高性能プロセッサー、制御ユニット、アクチュエーターといった製品を最も幅広くラインナップしているサプライヤーだからです。
統合安全技術は、ドライバー自身の運転時と自動運転時、どちらの状況でも有効なものです。今後も技術開発が進んで、いち早く市販車に導入されることを期待したいものです。
(長野達郎)