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■ABS、TCS、ヨー制御技術の組み合わせ
●単独事故の発生率を大幅に低減
ブレーキ制御の中で、もっとも高度で重要な役割を担っているESC (横滑り防止装置)です。車両の横滑りを防ぐだけでなく、4輪を個別に制動させることによってさまざまな運転支援技術にも応用されています。
クルマの安全にとって不可欠で、搭載が義務化されているESCについて、解説していきます。
●ESCとは
ESCは、「ABS (アンチロックブレーキシステム)」と「TCS (トラクションコントロールシステム)」、「ヨー制御」の3つの技術を組み合わせた横滑り防止システムです。
ABSとは、急ブレーキや滑りやすい路面でのブレーキ時に発生するタイヤロックを回避するために4輪独立でブレーキ制御するシステムです。またTCSは、滑って空転を始めた車輪にブレーキをかけることで空転を抑え、タイヤと路面の摩擦を復活させるシステムです。
ESCは、このABSとTCSの機能を進化させて、ヨーレート(回転角速度)センサーなどの情報によってコーナリング中のアンダーステアやオーバーステアを検出して、クルマがより安定化するように制御します。
●ESCの作動メカニズム
ESCは、制御油圧を作り出すモーターと電動油圧ユニット、エンジンECU、各種センサーで構成されます。センサーとしては、4輪の回転を検出する車輪速センサーや各種の操舵情報(ステアリングの操舵角や操作量、操作速さなど)を検出する操舵角センサー、車両のヨーレートと横方向の加速度を検出するヨーレートセンサーなどです。
ステアリングの操舵角の変化とそれに対するヨーレートと横加速度の大きさの変化を常時比較しながら、運転操作に見合ったクルマの走行姿勢が保たれているかを判断します。
もし、ドライバーの運転操作とクルマの挙動が一致しない場合は、エンジンのスロットル弁を閉じてエンジン出力を抑えて、4輪のブレーキを制御してクルマの姿勢を安定させます。
オーバーステアによるスピンの回避やアンダーステアの回避、雪路など滑りやすい路面での安定走行などに大きな効果を発揮します。
●ESC制御例
ESCは、旋回中のアンダーステアとオーバーステアを以下のように回避します。
ステアリングを切ってもクルマが外に振られて、思い通りに旋回できないのがアンダーステアです。ESCでは旋回内側後輪のブレーキ制御圧を高めて旋回モーメントを発生させて修正します。
一方、旋回力が強すぎるオーバーステアの場合、ESCで旋回外側前輪のブレーキ制御圧を高めて反対方向の旋回モーメントを発生させてスピンを回避します。
●ESCの応用
ESCのベースとなっている電動油圧ユニットは、現在実用化が進んでいる運転支援技術の自動緊急ブレーキ(AEB)や追従機能付クルーズコントロール(ACC)の制動制御に適用されています。さらに、上り坂走行支援機能(坂道発進支援機能)や下り坂走行支援機能にも使われています。
登り坂走行支援は、坂道発進するときにブレーキペダルからアクセルペダルに踏み替えた瞬間に一時的にブレーキをかけて後退を防止する機能です。また下り坂走行機能は、滑りやすい路面の下り坂を走行するときに自動的にブレーキをかけて、スリップを防止しながら5km/h程度の低速で走行する機能です。
ESC搭載によって、単独事故の発生率が30~40%も減少すると報告されています。欧米の普及を追従する形で、日本でも搭載が義務化されました。
ESCは、ABSとTCSの進化版であり、現在実用化が進んでいる運転支援にとって最も重要な技術のひとつとして位置づけられており、今後もさらなる進化が期待できます。
(Mr.ソラン)