【自動車用語辞典:ブレーキ「油圧機構」】油圧を使って制動力を伝えるブレーキシステムの根幹

■伝達効率に優れ、大きな制動力が発揮できる

●ブレーキブースターで踏力を増大する

ブレーキの基本は、ドライバーのブレーキペダル踏力を各車輪に適正に伝えることです。ほとんどのクルマが採用しているのは、軽い踏力でも大きな制動力が発揮でき、伝達効率に優れている油圧式です。

油圧ブレーキの作動原理について、解説していきます。

●油圧ブレーキの基本システム

油圧ブレーキでは、ドライバーがブレーキペダルを踏み込むと、まず「ブレーキブースター(倍力装置)」によって踏力が数倍程度に増大されます。増大された踏力は、「マスターシリンダー」でブレーキ油圧に変換されて油圧制御回路へと進みます。ここからブレーキラインを介して、ブレーキ油圧が4つの駆動輪のブレーキ装置へ伝達され、制動が働きます。

ブレーキには、万が一でもその機能を失うことのないように、油圧配管の2系統化が義務付けられています。配管を2系統の独立したブレーキ油圧システムとして、1つの系統が故障したときでも残りの系統で最小限のブレーキ性能を確保できるようにしています。

●ブレーキブースター(倍力装置)の構造と作動原理

ブレーキブースターは、ブレーキペダルの踏力を軽くする倍力装置です。ブレーキペダルとマスターシリンダーの間に取り付けられ、ペダル操作と連動します。

乗用車のほとんどは、エンジンの吸気圧力(負圧)を倍力源にした負圧式です。ブレーキブースターの内部は、ダイヤフラムで負圧室と空気室に分かれています。負圧室には、エンジンの吸気マニホールドで発生する負圧が導かれて、空気室にはブレーキペダルを踏み込むと空気が流れ込むようになっています。

パワーピストンを挟んだ負圧と大気圧の圧力差がペダル踏力を高め、小さな踏力でもマスターシリンダーのピストンを押します。

負圧式ブレーキブースターには負圧が必要なので、エンジンが停止すると負圧が消失するためフットブレーキは徐々に重くなります。法規で規定されているので、エンジン停止後数回はブレーキが効くような仕組みになっています。

●EVには電動ブースターも

ディーゼルエンジンやリーンバーンエンジンは、ブレーキブースターを機能させる十分な負圧が発生しないので、エンジン駆動や電動のバキュームポンプが使われています。エンジンが頻繁に停止するHEVやエンジンのないEVも同様ですが、ブレーキブースターそのものを電動化した電動ブースターも実用化されています。

●マスターシリンダーの構造と作動原理

マスターシリンダーは、ブレーキブースターで増大された踏力をブレーキ油圧に変換する装置です。上部にはブレーキオイルのリザーバータンクがあり、マスターシリンダー内にオイルを供給します。

ブレーキペダルが踏み込まれてない状態では、ピストンはスプリングによって押し戻されて、上のリザーバータンクからブレーキオイルがシリンダー内に供給されます。ペダルが踏み込まれるとピストンが押されて、リザーバーからの通路が遮断されてオイルが昇圧されてブレーキ装置にブレーキ油圧が伝えられます。

●万一のために配管は2系統

乗用車のほとんどがマスターシリンダーのピストンを2つ並べて、油圧室を2分割したタンデム式マスターシリンダーを採用しています。

先述の2系統式配管のために、それぞれに専用の油圧室を持たせるためです。万一故障してもこの方式だと、どちらかの油圧系統が機能します。


ブレーキに要求される性能は、レスポンス良く適正な制動力を4輪に配分して、ドライバーの意図する制動力を実現することです。これらを最も簡易に低コストで実現できるのが、油圧制御方式です。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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