【自動車用語辞典:低燃費技術「概説」】エンジンのエネルギー損失をなくせば燃費は向上する!

■エンジンの仕事の大半な捨てられている

●電動化技術とともに開発が必要

現在自動車メーカーは、電動車の開発に精力的に取り組み、電動車の普及に邁進しています。一方で、20年後の2040年でもエンジン搭載車(含む、HEVやPHEV)は、全体の過半数を占めると予想されています。

電動化技術とともに重要なエンジンの低燃費技術について、解説していきます。

●将来エンジン車はなくなるのか?

燃費/CO2規制やZEV(ゼロエミッション車)規制の強化を背景に、すべてのメーカーは電動車の開発に注力しています。一方で新興国でのエンジン車の普及や、エンジンを搭載するHEV、PHEVが今後増加することを考慮すると、エンジン搭載車は2040年でも全体の過半数を占めると予想されています。

したがって、電動車に負けない低燃費エンジンや電動車用の低燃費エンジンを、電動化技術とともにクルマの両輪のごとく開発することが重要です。

●エンンジンのエネルギー収支

エンジンの仕事量は、燃料が燃焼して発生する熱量から、各種の損失(冷却損失、機械損失、ポンプ損失、排気損失、燃料の未燃損失)を差し引いた残りの熱量から、引き出されます。

これらの損失は、一般には燃焼による発生熱量の60%以上に相当し、すべてが廃棄されます。

1)冷却損失

燃焼室やシリンダーなどの壁面から、冷却水に捨てられる熱損失

2)機械損失

クランクシャフトやピストンなど回転や往復運動時に発生する摩擦損失(フリクション)

3)ポンプ損失

ガソリンエンジンで、空気量をスロットル弁で絞るときの通路抵抗による損失

4)排気損失

排出ガスとして捨てられる熱や圧力の損失

5)燃料の未燃損失

シリンダー内に投入された燃料の一部が、燃焼せずに捨てられる損失

燃費を良くする、熱効率を向上させることは、これらの損失を減らすことに他なりません。

●各種損失を減らす燃費向上手法

1)冷却損失

燃焼室のSV(表面積/体積)比を減らすロングストローク化(別頁で解説)、クールドEGR(別頁で解説)やリーンバーン(別頁で解説)による燃焼温度の低下は、冷却損失を減らす効果的な手法です。

2)機械損失

ピストンやクランクシャフトなどさまざまな摺動部の形状や材料、加工法などよるフリクション低減(別頁で解説)、軽量化やダウンサイジング(別頁で解説)、また潤滑油の低粘度化なども機械損失の低減につながります。

3)ポンプ損失

スロットル開度を開ければ開けるほどポンプ損失は低減するので、ダウンサイジングやEGR、リーンバーン(別頁で解説)などはポンプ損失の低減に効果的です。また、ポンプ損失低減に効果的な可変動弁機構は、多くのエンジンで採用されている一般的な手法です。

4)排気損失

過給(別頁で解説)は排気エネルギーの一部を回収するため、排気損失を低減します。アトキンソンサイクル(別頁で解説)やミラーサイクルは、高膨張比サイクルなので排気損失を低減する有効な手法です。また直接排気熱を回収する廃熱回収システム(別頁で解説)も、排気損失を減らす手法です。

5)燃料の未燃損失

燃料が蒸発しにくい低温時は、燃料が蒸発しにくいため未燃の燃料(HC)が増加します。これを避けるため、微粒化を促進した噴射弁が開発されています。また未燃燃料を排気行程中に燃焼させるための排気温度制御も採用されています。


本章では、エンジン技術の低燃費に絞り、最近注目を集めている可変圧縮比エンジンやHCCI(予混合圧縮着火)エンジンも含めて、さまざまな最新の低燃費技術の詳細について個々に解説していきます。

(Mr.ソラン)

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Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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