■「こんな大きなことになるとは」と後悔しても時すでに遅し
犯行動画をネットに投稿するのが流行している。
以下は2019年6月10日付け共同通信の記事だ。
『道路に爆竹、ネットに投稿 会社員の男書類送検、福岡
福岡県警中央署は10日、マンションのベランダから火の付いた爆竹を路上に投げたとして、福岡市中央区の会社員の男(26)を道交法違反(禁止行為)容疑で福岡区検に書類送検した。投げている様子を撮影した動画がインターネット上に投稿されており、投稿者の女性の話や映り込んだ周辺の建物などから男の犯行を突き止めた。
書類送検容疑は5月16日午前1時20分ごろ、同市中央区のマンション5階から火の付いた爆竹を、マンション下の路上に投げた疑い。
当時、男は知人の男女4人と酒を飲んでおり「こんな大きなことになるとは思わなかった」と容疑を認めている。』
そんなことが道交法違反になるのか? なるのである。
道路交通法第76条第4項が「何人も、次の各号に掲げる行為は、してはならない」として、第1項から第7号まで禁止行為を定めている。※何人=なんぴと
一 道路において、酒に酔つて交通の妨害となるような程度にふらつくこと。
二 道路において、交通の妨害となるような方法で寝そべり、すわり、しやがみ、又は立ちどまつていること。
三 交通のひんぱんな道路において、球戯をし、ローラー・スケートをし、又はこれらに類する行為をすること。
四 石、ガラスびん、金属片その他道路上の人若しくは車両等を損傷するおそれのある物件を投げ、又は発射すること。
五 前号に掲げるもののほか、道路において進行中の車両等から物件を投げること。
六 道路において進行中の自動車、トロリーバス又は路面電車に飛び乗り、若しくはこれらから飛び降り、又はこれらに外からつかまること。
七 前各号に掲げるもののほか、道路又は交通の状況により、公安委員会が、道路における交通の危険を生じさせ、又は著しく交通の妨害となるおそれがあると認めて定めた行為
その第4号について、交通警察官向けの「虎の巻」というべき『執務資料道路交通法解説』(東京法令出版)はこう解説している。
「石、ガラスびん、金属片」は例示にすぎず、「道路上の人若しくは車両等を損傷するおそれのある物件」はすべてこれに該当する。
たとえば火がついた煙草は人や車両等を損傷させるおそれがあるので該当するが、火がついていなければ該当しない。
投げる、発射するは、機械力を用いるか否かの相違である。
「投げる」は、ボールを投げるような外形でなくてもいい。たとえば石を握った手を開いて石を落下させる行為もこれに該当する。
したがって、火のついた爆竹を道路に投げる行為は第76条第4項第4号の違反にばっちりなるのである。
●酔っ払って通行人にぶつかっても交通違反になる!
この違反には反則金制度が適用されない。警察に捕まったあと数千円の反則金(行政上の軽いペナルティ)を銀行や郵便局の窓口に払えばおしまい、というわけにはいかない。
ではどうなるか。警察から検察へ事件が送られ、検察官の取り調べを受けることになる。結果、5万円以下の罰金刑(第120条第1項第9号)に処されるか、不起訴処分とされるか、どっちかになる。
酔って爆竹を道路に投げるのは危険で迷惑な行為だが、それだけでは普通は捕まらないだろう。
しかし犯行動画がネットに投稿されたとなれば、警察としては放置するわけにいかない。捜査して犯人を捕まえることになる。
日本のことわざに「雉も鳴かずば撃たれまい」というのがある。わざわざよけいなことをして自分を窮地に追い込むたとえだ。犯行動画のネット投稿はまさにそれに当たる。
ちなみに第76条第4項の第1号がこんなことを禁止している。
一 道路において、酒に酔つて交通の妨害となるような程度にふらつくこと。
泥酔して千鳥足の人をときどき見かけるが、通行人にぶつかったりクルマや自転車に急ブレーキをかけさせたりすると交通違反になるとは、誰も知らないのではないか。
道路交通法には意外な規定がいろいろある。
(今井亮一)