【自動車用語辞典:低燃費技術「ダウンサイジングターボ」】小排気量エンジンにターボを組み合わせて燃費をかせぐ

■直噴エンジンとターボの相性のよさを利用

●最新の燃費試験では不利な側面も

2000年以降、欧州では燃費向上のためダウンサイジングしたエンジンに直噴ターボを組み合わせた「ダウンサイジング直噴ターボ」が普及し始め、日本でも採用例が増えてきました。

最近のRDE(実走行排出ガス)規制など実走行での燃費や排出ガスを重視する動きの中で、課題も浮上してきたダウンサイジング直噴ターボのメリットと課題について、解説していきます。

●ダウンサイジングの狙いとメリット

ダウンサイジングは、排気量を小さくして燃費向上を図り、出力低下をターボで挽回するコンセプトです。欧州で採用が始まり、最近では日本でも採用例が増えています。

排気量を小さくする、あるいは気筒数を減らすと、ポンプ損失とフリクションが低減するため燃費が向上します。
ポンプ損失の低減は、同じ出力を得るためのスロットル開度が大きくなるため、また摩擦損失の低減はエンジンの構成部品が小型化するためです。

●直噴ターボの狙いとメリット

ターボで過給すると、吸入空気が圧縮されシリンダー内の圧縮温度も上がるため、無過給エンジンに比べてノッキングが発生しやすくなります。したがって、過給エンジンは無過給エンジンよりも圧縮比を低めに設定しなければいけません。

直噴(筒内直接噴射)は、吸気ポートに燃料を噴射する通常のガソリンエンジンに対して、以下のメリットがあります。

・シリンダー内に噴射された燃料は、周辺から熱を奪って気化します。この気化潜熱によってシリンダー内の温度が低下し、密度が上昇し吸入空気が増え出力が向上します。

・シリンダー内の圧縮温度が下がると、ノッキングしづらくなります。ノッキングが抑えられれば、圧縮比を上げることができ、出力向上や燃費向上につながります。

以上のように、直噴はノッキングしづらく、ターボ化による圧縮比の低下を最小限に抑える効果があるため、ダウンサイジングターボには必須シテムなのです。

●ダウンサイジング直噴ターボの課題と今後

ダウンサイジングすると排気量が小さくなるのでターボが効かない低速域はトルク不足になります。また、ターボにはターボラグがあり、これら2つはダウンサイジング直噴ターボの大きなデメリットです。特に、CVTやステップATが多い日本では、発進加速などで力不足が目立ちます。

もうひとつの課題は、排気量が小さいため中高負荷域の燃費や実走行燃費が悪化しやすいことです。マツダは、実走行の燃費を重視してダウンサイジングよりも適正な排気量「ライトサイジングの高圧縮比エンジン」の方が総合的に優れている、との見解を示しています。

ダウンサイジング過給エンジンとライトサイジング高圧縮比エンジンのどちらが優れているかは、クルマの使い方や走行条件に大きく左右されます。

●ディーゼルはダウンサイジングの元祖

自動車用ディーゼルエンジンは、ほぼすべてターボエンジンです。ターボ装着によって、性能向上だけでなく、排出ガスを効果的に低減できるからです。したがって、過給によって必要な出力が確保されているディーゼルエンジンは、すでにダウンサイジングしていると言えます。


欧州では、2017年9月から国際的に統一されたモード試験「WLTC」や実走行の排出ガスを規制する「RDE」が施行されています。これらは、高速走行を重視した実走行に近い運転条件の評価なので、小排気量のダウンサイジング直噴エンジンにとっては逆風と言えます。

「ダウンサイジング」か、「ライトサイジング」か、まだその答えは出ていません。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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