■ダウンサイジングターボ時代の今、あえて大排気量V型NAを回す!
・クルマ好きオヤジの永遠テーマとは?
ターボかNAか。これ、クルマ好きのオッさんたちの間で長年交わされてきたエンジンにまつわる議論ですが、近ごろはなんとなく結論が出つつあるようです。
どうやら勝ちそうなのはターボ。いや、言い換えればNAが先を譲らざるを得ないというべきかもしれません。
同じ出力を小さな排気量で得られる一方、NAに比べると燃費が悪い。そういったターボの印象が一変したのが00年代なかばの話。VWグループがTSIと称される技術を市販車に搭載してからのことです。
1.4Lユニットに過給器を加えて、2.5L NA並みのトルクとパワーを、2L NAを上回る燃費と共に実現する。なんともムシのいい話を実現できた背景には、高圧インジェクターで燃料の霧状化が可能になった直噴技術、その噴射を精緻にコントロールするECUの進化、そして同じく緻密化された過給制御など、欧州勢が90年代後半から培ってきたコモンレールディーゼルターボのノウハウがきっちり活かされたことが挙げられます。更にVWグループはこのパワートレーンを徹底的に高効率活用すべくトルコンと違ってスリップ率の著しく低いトランスミッション、DSGも採用。デュアルクラッチ式ATの先駆けとなりました。
これらダウンサイジングテクノロジーは、ハイブリッドに先んじられた環境技術の主導権を握ろうというサプライヤーの背後的思惑もあり、あれよあれよと普及します。もちろんこちらにも弱点はあって、中高速の低負荷巡航などでは低排気量の利をもって好燃費をマークするも、スロットル開閉の多くなる街中領域ではなかなか燃費が伸びません。そこで過度な過給依存は抑えて排気量を適正化するライトサイジング的なエンジニアリングに修正され、今に至っています。
と、これは実用車の話に留まらず、スポーツカーの世界にも当てはまるんですね。フェラーリは主力のV8を4.5L NAから3.8L V8ツインターボにスイッチ、ポルシェも911カレラ系のフラット6をツインターボ化しています。例えば最後のNAとなった911カレラSの3.8L NAに対して、現行のカレラSは3Lツインターボで出力は1割以上向上、C02排出量は1割以上削減と、その効果はデータに十分現れています。
と、スポーツカーブランドにとってエンジンのターボ化は副次的なメリットを生み出しました。それは大切な商品価値であるパワーの差別化がNAよりも調整しやすいということです。たとえば911カレラ系は最後のNAとなった991前期世代、3.4Lと3.8Lという2つの排気量をグレードに応じて使い分け、更に微細にチューニングを違えたりしていました。が、ターボ化された991後期世代は排気量を3Lに一本化し、370〜450psを使い分けています。同様にフェラーリも3.9L V8で600〜720psを、メルセデスAMGは4L V8で476〜612psをカバー。これほどの馬力差をNAエンジンで作り分けるには、排気量も気筒数もまったく違えたものにならざるを得ません。となると、車体のパッケージングにも少なからず影響が及びます。
お金を掛けて手を尽くし至極の名機を作ったとしてもCO2排出量の計測数値的には不利。そして搭載の汎用性も低く…と、今の自動車ビジネスにおいてNAのスポーツユニットはなかなか居場所が見つかりません。絶滅が危惧される理由はそんなところにあるのでしょう。でもNA育ちのクルマ好きオジさんにしてみれば、そんな現実はなかなか受け入れ難いものです。