全日本ラリーに参戦中のリアルなラリー車に試乗するという貴重な機会をいただきました。それもミッションはCVTというかなり特殊なモデルです。
2019年から全日本ラリーのクラス分けが大幅に変更されました。2018年までJN6というクラスが最上位だったのですが、それをひっくり返し、JN1が最上位JN6がボトムとなりました。今回試乗したのはそのJN6クラスに参戦しているヴィッツです。
JN6クラスはハイブリッドや電気自動車に加えて1500cc以下のAT車などが含まれます。このヴィッツの最大の特徴は、アイシンAWが開発したスポーツCVTを搭載することです。
ここでCVTはどんな装置かを再確認しておきましょう。CVTというのは「Continuously Variable Transmission」の略称で、日本語では無段変速機となります。一般的にCVTと言った場合は一対のプーリーを金属ベルトでつないで、そのプーリーの内径を変化させることで無段階に変速を行うことを可能にしています。
ところでなぜ変速機が必要なのでしょう? それはエンジンは回転数によって出力やトルクが異なるからです。なので、変速機を使って出力やトルクの大きい回転数を使えるようにしています。
今回の試乗車のヴィッツは6100回転で最高出力が出る設計です。たとえばこのヴィッツに普通のMTを組み合わせると、1速で発進して6100回転(もしくは少しプラスアルファ)で2速にシフトアップ、いったん回転が下がるのでふたたび6100回転で3速にシフトアップ……というのが速度を上げていく行程です。
ここで「いったん回転が下がる」ということがポイントです。回転が下がれば当然効率が悪くなります。こうした効率が悪くなることを避けるため、エンジンにはフラットなトルク特性が求められます。トルク特性がフラットならば、回転が下がっても効率よくトルクを路面に伝えることができます。しかし、クラッチを切って、ギヤチェンジするMTではクラッチを切っている間はトルクが途切れてしまいます。一般的なATもクラッチペダルは存在しませんが、AT内部にはクラッチがあり断続しているので、やはりこの部分のロスはあるのです。
CVTの変速は無段階でクラッチによる断続はありませんので、最高出力が発生する6100回転を保つように変速し続ければ、もっとも効率のいい変速ができることになります。試乗車のラリーマシンはそういうセッティングになっています。
その成り立ちを聞き、そもそも最終変速機構(ファイナルギヤ)を含めた変速機構は、トルクを増大させるのが目的だということを再認識しました。
(文・諸星陽一/写真・高橋 学)