【BMW 330i試乗】ベンチマークと言われるクルマにはちゃんとした理由がある

●クルマの動きが気持ちいい、間違いのないモデル

BMWの主力モデル・3シリーズがフルモデルチェンジして7代目となりました。BMW・3シリーズはかつてはCセグメント、現在はDセグメントのベンチマークと呼ばれています。

BMWが現在のように成功するに至ったのは、1970年代に始まった02シリーズと言われるコンパクトな2ドアセダンのヒットにあるといっても過言ではないでしょう。この当時のモデルは日本でいうところの5ナンバー枠に収まるようなボディで、Cセグメントと呼ばれるものでした。その後、徐々にボディは大きくなり、現在ではDセグメントと呼ばれる部類になりましたが、今でもコンパクトなセダンのベンチマークはBMWの3シリーズと言われます。

先代のBMW3シリーズはアウタードアハンドルを日本専用設計として全幅を1800mmに抑えていました。これはマンションの駐車場などの規程で「全幅は1800mm以下」としているところが多かったからです。しかし今回の3シリーズは全幅は欧州モデルと同様の1825mmです。これはBMWジャパンが綿密に調査した結果、「1800mmにこだわる必要ない」と判断したからだといいます。全長は4715mm、全高は1430mmでコンパクトとまではいきませんが、上手にまとめられたボディを持っています。

試乗車として用意されたのは330iです。搭載されるエンジンは2リットルターボの4気筒で、スペックは258馬力/400Nm。8速のスポーツATが組み合わされます。

ドライバーズシートに乗ると、まずはものすごく太いステアリングにビックリさせられました。これは試乗車がMスポーツだからです。ステアリングを握ると9時15分の位置が少し細くなっていて、最もしっくりきます。BMWではこの位置でのステアリングポジションを推奨していて、それが自然に取れるようになっているというわけです。私自身もこのポジションでドライブするので、ポジションには違和感はありません。ステアリングの太い部分はデザインと考えればいいでしょいう。

搭載されるエンジンは気持ちよく吹け上がるタイプのものです。BMWは6気筒が一番と言う人も多いのですが、私は4気筒もけっこう好きです。とくに2リットルの4気筒はエンジン回転とトルクの出方のバランスがよく好感があります。それはたとえターボであっても同様です。

アクセルをグッと踏み込んでいくと、低速から力強く加速感を得ることができます。その加速感が衰えることなくエンジンは回り続け、そこに速度が見事にシンクロします。シフトアップ時にはほんの一瞬加速Gが鈍り、そこからあっという間に元の加速Gに復帰します。「これぞステップAT」という加速感がクルマ好きの心をくすぐるのです。

ハンドリングは軽快で秀逸です。正確なトレース性と言ってしまえばそれまでなのですが、そこに至るまでのクルマの動きがじつに気持ちいいのです。

ステアリングを切ってからクルマが動き出すまでの、ゼロコンマゼロいくつ程度のタイムラグの出し方が上手なのです。レーシングカーならただただ早ければいいでしょう、コンフォート性重視のショーファードリブンならある程度の遅れが必要です。そこでレーシングカーではない、スポーツカーでもない、あくまでもスポーツセダンであるという位置付けにあった動きが得られます。しかも、ドライブモードを切り替えることで、そのパターンが数種類選べるというのもロードカーとして重要な部分です。

BMWは純粋なMシリーズにはランフラットタイヤを使わない傾向にあります。しかし、Mスポーツの場合はランフラットタイヤが使われます。ランフラットタイヤを使い始めたころは、路面とのコンタクトが硬く、どうしても乗り心地が確保できませんでした。また、別の自動車メーカーの場合もランフラットでの乗り心地は決していいものとはいえません。

しかし、ここにきてBMWのクルマ作りとランフラットタイヤとの相性が非常によくなってきたと感じます。Mスポーツは標準では18インチタイヤを装着しますが、試乗車はオプションでフロントに225/40R19、リヤに255/35R19サイズのタイヤを履いていましたが、とくにランフラットであることを感じさせない乗り心地を確保していました。

このあたりのセッティングのよさは、長年ランフラットを使ってきたノウハウが大きく生かされている感じがします。

今回の3シリーズには面白い装備がプラスされました。それは50m分の走行を戻ることができる「リバースアシスト」と言われる装備。まるでPCの取り消し操作のように、50m分の走行を無かったことにできるのです。前進中に戻りたくなった際には、クルマを止めてセンターディスプレイのスイッチを操作すると、今まで通ってきた経路を50mさかのぼることができます。袋小路に迷い込んだときなどはじつに便利に使えそうな機能です。

試乗してみるとCセグメント、Dセグメントのベンチマークと言われるだけのしっかりした理由があるのがわかります。ここを目標にクルマを作れば、どのメーカーも間違いないでしょう。大切なのはメーカーごとの個性、そしてユーザーが買えるプライスを実現することだと私は思います。

(文/写真・諸星陽一)

この記事の著者

諸星陽一 近影

諸星陽一

1963年東京生まれ。23歳で自動車雑誌の編集部員となるが、その後すぐにフリーランスに転身。29歳より7年間、自費で富士フレッシュマンレース(サバンナRX-7・FC3Sクラス)に参戦。
乗って、感じて、撮って、書くことを基本に自分の意見や理想も大事にするが、読者の立場も十分に考慮した評価を行うことをモットーとする。理想の車生活は、2柱リフトのあるガレージに、ロータス時代のスーパー7かサバンナRX-7(FC3S)とPHV、シティコミューター的EVの3台を持つことだが…。
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