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■トルク伝達のみならず駆動トルクの増幅機能も併せ持つ
●改良や多段化により燃費の悪さを払拭
ステップAT車は、世界的にみてCVT、DCT、AMTを含めたAT全体の約6割を占め、主流となっています。特に渋滞が多い日本では、変速操作が不要であることが大きなメリットです。
要素技術の改良や多段化などによって、かつての燃費の悪さを払拭したステップATの構造や機構について、解説していきます。
●ステップATの特徴
ATとは、ステップAT、CVT、DCT、AMTを含めた自動トランスミッション全般を指しますが、日本ではATというと通常はステップATのみを指すことが多いようです。
ステップATは、トルクコンバーター(トルコン)と自動変速機で構成されています。
トルコンは、動力をトランスミッションに伝達したり遮断したりする流体クラッチの役目とともに、駆動トルクを増幅する機能も兼ね備えています。自動変速機は、複数の遊星歯車機構を油圧制御によって切替えて、スムーズな変速を実現します。
トルコンはドーナツのような形をして、内部はポンプとステーター、タービンで構成され、それぞれにプロペラがついています。これら3つのプロペラは直接つながってはいませんが、内部に満たされた作動油の回転力によって、動力をスムーズに伝達する仕組みになっています。
(トルコンの詳細については、別頁で解説)
●ステップATの構造
遊星歯車機構は、サンギヤと遊星ピニオンギヤ、遊星キャリヤ、リングギヤで構成されています。この中のサンギヤ、遊星キャリヤ、リングギヤの3要素のどれかを固定し、残りの2つを入力軸と出力軸に巧妙に切り替えることで変速を実現します。
ギヤの切替えは、油圧制御によって各要素に配置された多板クラッチの断続で行います。
変速段数の増加は、前列の遊星歯車による変速後の駆動力を再度後列の遊星歯車に入力することによって行います。通常、3~4速ATでは2組、5~6速ATでは3組、7~9速ATでは4組の遊星歯車を直列につなぎます。
最近のステップATは、燃費の向上をねらって多段化が進み、10段ATも登場しています。
●遊星歯車機構の作動
増速、減速、後退(逆回転)の場合の遊星歯車機構の動きを、簡単に説明します。
・増速
サンギヤを固定し、入力軸を遊星キャリヤ、出力軸をリングギヤとします。
遊星ピニオンギヤが自転しながらサンギヤの周りを公転し、出力軸のリングギヤは遊星キャリヤが自転する分だけ増速回転します。
・減速
サンギヤを固定し、入力軸をリングギヤ、出力軸を遊星キャリヤとします。
遊星ピニオンギヤが自転しながらサンギヤの周りを公転し、出力軸の遊星キャリヤは、遊星ピニオンギヤの分だけ減速回転します。
・後退(逆回転)
遊星キャリヤを固定し、入力軸をサンギヤ、出力軸を遊星キャリヤとします。
遊星ピニオンギヤは自転のみなので、出力軸の遊星キャリヤはサンギヤに対して、減速しつつ逆回転します。
最近のステップATは、高度な制御によって変速はスムーズになり、かつて悪かった燃費についても運転条件にもよりますが、MTに負けないレベルまで改善されてきました。
課題は、多段化によってさらに大きく重くなること、また機構が複雑で精密なためコストが高いことです。
(Mr.ソラン)