●自動車技術会「モータースポーツ技術と文化」シンポジウム総覧
去る2月27日、自動車技術会主催のシンポジウム「モータースポーツ技術と文化」が東京工業大学において開催された。
毎年この時期恒例となったシンポジウムなのだが、学会系の講演会なので語り手としてはまず、それぞれのテーマについてアウトラインを紹介し(この部分は聴く側がモータスポーツに関わっている者なら「知っている」ことを確認・整理する導入部)、そこから「実際にどんな開発をしたか」「どんな技術的成果や知見を得たか」を語ってゆく。さらにこのシンポジウムのタイトルに「文化」の文字が入っていることからも、さまざまな社会との関わりなどに触れる講演も多い。
以前は「スポーツ・マーケティングの視点から見たモータスポーツ」などの講演もあった。このあたり、シンポジウムの企画担当、個のイベントの場合は自動車技術会モータスポーツ部門委員会の皆さんが知恵を絞るところだ。
いずれにしても、講演内容としては普段はなかなか聞けない、話してもらえない個別技術やその開発のディテール、さらに具体的な数値や状況、裏話などまで語られることが多く、とても興味深い。
今回は、4輪、2輪の競技用車両、それも市販車両をベースにした国際レベルのカテゴリーの開発と実戦に関わる講演が3件、それぞれの分野で世界最高峰カテゴリーであるMotoGP/Moto2、ル・マン24時間レース&WEC(世界耐久選手権)への挑戦、加えて今、世界的な量産車シルエットを纏うトップ・カテゴリーとして同じ車両規則に合流しつつある「class1」、すなわち日本のスーパーGTとドイツのDTMが用いる車両と両シリーズの現況、さらにそうした走り全ての根幹にある「タイヤ」の力学的特性をどこまで把握できているのか、という個人的には何より興味深いテーマまで、合わせて7件の講演が準備されていた。
朝10時から夕方5時まで、濃い内容がたっぷりと詰め込まれたこの1日のシンポジウムについて、ここからはそれぞれの講演の内容を要約しつつ、その中で「なるほど」「そうだったのか」と聴き手としての私の印象に残った要点について、以下、講演順に紹介してゆくことにしよう。
この日は例年以上に、モータスポーツが自動車技術やものづくりにおいて決して特殊な世界ではないこと、むしろ今の日本で必要とされているものが、ハードはもちろんソフト、人のあり方まで含めて、がっちりと詰まっていることを実感させるストーリー、実例集が語られたのではあった。
(両角 岳彦)