【自動車用語辞典:エンジン「バランサーシャフト」】レシプロエンジンの永遠の課題「振動」を抑制する仕組み

■ピストンの往復運動による振動を抑制する

●4気筒エンジンでは慣性2次振動が発生する

レシプロエンジンでは、ピストンの往復運動で発生する慣性力に起因する振動は避けられません。この振動を抑制するために一般的に採用されているのが「バランサーシャフト」です。最も一般的に採用されている4気筒エンジンのバランサーシャフトの原理と効果について、解説していきます。

●エンジンの振動

最も一般的な直列4気筒エンジンでは、「慣性2次振動(エンジン回転数の2倍の周波数)」が発生します。2気筒ずつ対称的な動きをしてバランスが取れているようですが、実はピストンが下向きに動く速度より、上向きに動く速度の方がわずかに速いのでその差が振動を発生させます。

また、直列3気筒エンジンや直列5気筒エンジンなど奇数気筒エンジンでは、クランクシャフトの中央位置を中心にピストン配置を対称にできないので、エンジン自体を上下に揺する「慣性1次の偶力振動」が発生します。これが、奇数気筒数の振動が大きいと言われる要因となっています。

これらの振動を抑制するために、バランサーシャフトが採用されます。

●バランサーシャフトとは

排気量2.0L以上の直列4気筒エンジンでは、バランサーシャフトが採用されます。ピストンが大きく(重く)慣性力が大きくなるため、2次振動が問題となるケースが多いためです。

日本では、1974年に三菱自動車が「サイレントシャフト」という名称で2気筒の軽自動車用エンジンに初めて採用し、翌年には4気筒エンジンにも採用しました。一対のサイレントシャフトをオイルポンプに連動して回転させ、振動を効果的に低減しました。その後、ポルシェなど欧州メーカーも採用し、現在はディーゼルエンジンを含めて2.0L以上の4気筒エンジンの多くは、サイレントシャフトに類似したバランサーシャフトを採用しています。

ただしバランサーシャフトは、クランクシャフトからタイミングベルトやチェーンを介して回転させるので、高速域で駆動ロスが発生します。最近は、駆動ロスを抑えたコンパクトなユニットタイプが主流になっています。

●バランサーシャフトの原理

エンジンの2次慣性力は、ピストンの往復運動によって180°の周期で上下方向に働きます。4気筒エンジンの場合は、NO.1&NO.4とNO.2&NO.3の気筒が対称的な動きをします。しかし、ピストンが下向きに動く速度より上向きに動く速度の方がわずかに速いので、その差によって90°周期の2次振動が発生します。

バランサーシャフトは、アンバランスを付けた一対のバランサーシャフトをクランクシャフト回転数の2倍の速度で逆回転させます。このバランサーシャフトが発生する逆位相の起振力によって、2次慣性力をキャンセルします。一方で左右の慣性力は、一対のバランサーシャフトで互いにキャンセルします。

また、慣性1次偶力が発生する直列3気筒エンジンと5気筒エンジンでも、それをキャンセルするためにバランサーシャフトが採用される場合が多いです。


かつてホンダのF1エンジンにも、バランサーシャフトが採用されていました。不快な振動は、ドライバーの集中力を欠き、疲労が蓄積するためです。

最近のクルマは、上級志向が強く、乗り心地や振動騒音の軽減は商品力強化の重要なテーマです。バランサーシャフトだけでなく、エンジンマウントやクランクシャフトのダンパー機構、フライホイールなどで総合的にエンジンの振動騒音を低減しています。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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