【自動車用語辞典:エンジン「筒内流動」】エンジンの燃焼効率を向上させる「混合気の流れ」はなぜ必要?

■燃焼をできるだけ速めて熱効率を高める工夫

●ディーゼルでは「スワール」、ガソリンでは「タンブル」

エンジンの燃焼効率を向上させるためには、シリンダー内の流動を強化することが重要です。ディーゼルエンジンでは「スワール」、ガソリンエンジンでは「タンブル」と呼ばれる旋回流を活用しています。スワールやタンブルを生成する狙いや生成手法について、解説していきます。

●なぜ筒内(シリンダー内)流動は必要なのか

熱効率を向上するためには、できるだけ燃焼速度を速めて上死点付近で短時間に燃焼を完了させることが重要です。燃焼を速くするための効果的な手法が、シリンダー内の流動の強化です。シリンダー内の流動を強化すると、それに付随した小さなスケールの乱れが発生するため、燃焼が促進されます。

高速域ではピストンスピードが上がり自然に流動は増大するため、流動の強化よりも吸気量を増やすことに重点が置かれます。流動強化が必要なのは、燃焼速度が遅くなる低中速の部分負荷の運転領域です。

シリンダー内の流動としてはディーゼルエンジンで採用している水平方向旋回流のスワールと、ガソリンエンジンで採用しているシリンダー軸方向旋回流のタンブルがあります。

●スワールの生成方法

ディーゼルエンジンはピストン上面に形成されたドーナツ型のキャビティ燃焼室に燃料を噴射しながら自着火する拡散燃焼です。したがって、ドーナツ型の燃焼室内に噴射燃料を収めて流動を確保するためには、水平方向のスワールが必須です。

スワールを生成するためには、吸入空気を吸気弁全周から均一にシリンダー内に流入するのではなく、流れに偏りを持たせる必要があります。一般的な生成手法としては、吸気ポート形状を渦巻き状にしたヘリカルポートを使う、吸気ポート内に流れを制御するスワールコントロール弁を装着する、吸気2弁エンジンであれば片弁を閉じるなどがあります。

●タンブルの生成方法

かつてはガソリンエンジンもスワールを採用していました。しかし、1990年代から高出力化による4弁化が普及し、スワールよりも縦渦のタンブルの方が生成しやすいため、タンブルが採用されるようになりました。

タンブルは、吸気ポートをストレート形状にして、吸気ポートの上部から流入する空気量を増大させて生成させます。日産など、タンブルコントロール弁を吸気ポート内に装着している例もあります。基本的には、吸気ポート形状の最適化でタンブルを調整でき、スワールに比べて吸気量が減少しにくいメリットがあります。

タンブルは、4弁化とともに生まれた比較的新しい流動制御技術です。一方で、ディーゼルエンジンも4弁化が進みましたが、前述のようにドーナツ型の燃焼室内で燃焼を完結させるために、水平旋回流のスワールしか対応できないため、現在もスワールが採用されています。

●スワール比とタンブル比

スワールとタンブルの強さの指標として「スワール比」と「タンブル比」が使われています。スワール比とタンブル比は、ピストンが1往復する間に旋回流が何回転するかを表しています。例えば、スワール比2はピストンが吸気(ピストン下降)から圧縮(ピストン上昇)の間にスワールが2回転することを意味します。


吸気弁周りから流入する空気の流れに偏りを持たせるということは、吸入空気量を減らすことに他なりません。したがって、シリンダー内の流動強化と吸入空気量を増やすことは、トレードオフ関係にあります。目標とするスワール比あるいはタンブル比と吸入空気量が両立できる吸気ポート形状は、最近はCAE(熱流体解析)技術によって精度良く設計できます。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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