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■ガソリンとディーゼルでは目指す方向が逆になる
●エンジンの熱効率を決定する重要な因子
圧縮比は、エンジンの熱効率すなわち出力や燃費を決定する重要な因子です。圧縮比の定義、ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの圧縮比設定の考え方の違いについて解説していきます。
●圧縮比と膨張比
圧縮比とは「シリンダー内の空気または混合気が、ピストン上昇によってどれくらい圧縮されるのか」の割合を示す指標で、次の計算式で表されます。
圧縮比=(燃焼室容積+排気量)÷燃焼室容積
燃焼室容積とはピストンが上死点(往復運動するピストンが最も上昇した位置)での容積、排気量とはピストンが往復運動する間の容積で「ボア×2×3.14(円周率)×ストローク×気筒数÷4」です。
一方膨張比とは「燃焼ガスがピストン下降によってどれくらい膨張するか」の割合を示す指標で、通常は圧縮比と同じ値を示します。
熱効率は燃焼エネルギーがどれだけピストンを押し下げる機械的エネルギーに変換されるかの割合です。したがって熱効率は本来膨張比に依存しますが、一般には圧縮比=膨張比なので、両者を区別せず代表して圧縮比が使われます。
熱効率は、圧縮比(膨張比)の上昇とともに向上しますが、圧縮比が14より高くなると向上率は頭打ちになる傾向があります。圧縮比を上げていくと燃焼室容積が減るため、SV比(燃焼室表面積/容積)が増大して、壁面からの熱損失が増えてしまうからです。
エンジンは、発生した燃焼エネルギーの多くを排出ガスの熱として捨てます。圧縮比(膨張比)を高くすればするほどピストンが下降する間に燃焼ガスは膨張して排出ガス温度が下がり、捨てるエネルギーが減るため、その分仕事量が増えます。このように考えると、圧縮比(膨張比)が高ければ熱効率が高いということが理解しやすくなります。
●ガソリンエンジンの圧縮比設定
ガソリンエンジンでは圧縮比を上げるとノッキングが発生するため、一般的には圧縮比10〜13程度に設定されます。
ノッキングとは、火花点火による火炎が到達する前に燃焼室端部の未燃ガスの温度が上がって自着火してしまう現象です。高温高圧の激しい燃焼なので燃焼室内で高周波の圧力振動が起こってカリカリといった音が発生し、最悪の場合は熱によってピストンが溶損する原因になります。
ノッキングの発生を抑えるため、燃焼室形状の最適化や、未燃ガスの温度を下げるために燃焼室の冷却性を向上させるといった手法が採用されています。
過給エンジンの場合はピストンで圧縮する前にすでに吸気が過給によって圧縮されています。したがって圧縮後のシリンダー内温度が高くノッキングしやすいため、圧縮比は8〜9程度と低く設定されます。その分、燃費は悪くなってしまいます。
ちなみに、2018年春に「夢のエンジン」と呼ばれた可変圧縮比エンジンが、日産によって実用化されました。運転条件に応じて自動的に最適な圧縮比に設定することができるため、燃費と出力を両立します。
独自の可変圧縮比機構によって、低回転・低負荷運転条件では燃費のために圧縮比を高く、高回転・高負荷運転条件ではノッキングの発生を抑えるため圧縮比を低く設定します。
●ディーゼルエンジンの圧縮比設定
ディーゼルエンジンは着火性の良い軽油を使った圧縮自着火エンジンです。圧縮高温の空気に燃料を噴射して燃焼させるため、圧縮比は一般には17〜18程度に設定します。ガソリンエンジンに比べて圧縮比が高いので、熱効率が高く、燃費が良くなります。
ただし、圧縮比が高いために有害ガスNOx(窒素酸化物)が排出されやすく、またエンジン各部が頑強な構造になるためフリクションが大きくなります。
最近はNOx低減やフリクション低減のため、圧縮比を15以下に下げたディ-ゼルエンジンが出現しています。圧縮比を下げると圧縮温度が下がり着火性が悪化するので、低温始動性や燃焼安定性を改良する技術が必要です。
燃焼方式の違いによって、ガソリンエンジンとディーゼルエンジンで圧縮比の目指す方向が真逆である点が、興味深いですね。
(Mr.ソラン)