【自動車用語辞典:エンジン「燃料による構造の違い」】ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの違いとは?

■燃料の性状が違うから、燃焼方式が大きく異なってくる

●自動車用エンジンはガソリンとディーゼルに大別できる

自動車用エンジンは、乗用車で一般的な「ガソリンエンジン」と、トラック・バスなどの大型車の「ディーゼルエンジン」に大別されます。ガソリンエンジンは、ガソリンを燃料とする「火花点火エンジン」、ディーゼルエンジンは軽油を燃料とする「圧縮自着火エンジン」です。

この項では、2つのエンジンの違いと特徴、得失について解説していきます。

●ガソリンと軽油は何が違うのか?

エンジンの違いの前に、まずガソリンと軽油の燃料性状の違いに触れておきます。

いろいろな成分が混合している原油から蒸留温度を調整することによって、ガソリン・灯油・軽油・重油などが抽出されます。

ガソリンは沸点が30〜220°Cの成分、軽油は沸点が200〜350°Cの成分です。引火点はガソリンが−40°C以下に対して、軽油は40°C以上。着火点(発火点)はガソリン約300°Cに対して、軽油は約250°Cと性状が異なります。

ガソリンは、蒸発しやすく炎を近づけると常温でも容易に引火し、軽油は蒸発しにくいですがガソリンよりも低い温度で着火(発火)します。

●ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの違い

2つのエンジンの最大の違いは、前述の燃料性状の違いに起因する燃焼方式です。

ガソリンエンジンは、ガソリンの混合気を圧縮して点火プラグの火花で混合気に点火(引火)し、燃焼する火花点火方式です。一方、ディーゼルエンジンは空気のみを圧縮して高温になった圧縮空気中に微粒化した軽油を噴射し、蒸発した軽油が自着火(発火)する圧縮自着火方式です。

ガソリンエンジンは、それほど高温でない圧縮混合気でも点火すれば燃焼するため、ノッキングが発生しない比較的低めの圧縮比(9〜12)に設定します。一方ディーゼルエンジンは圧縮空気温度を上げて自着火させるため、高めの圧縮比(16〜18)に設定します。

●ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの得失

燃費はディーゼルエンジンの方が15〜20%程度優れています。ディーゼルエンジンは圧縮比が高いため熱効率が高く、さらに吸入空気量を制御するスロットルが通常はないため、ポンピング損失が小さく燃費向上に寄与しています。

ガソリンエンジンも燃費を良くするため圧縮比を上げたいのですが、圧縮比を上げていくとノッキングが発生するため、現状は圧縮比12〜13程度が限界です。

出力についてはディーゼルエンジンはほぼすべてターボ付きですが、ノッキングによる出力低下がないので、低中速トルクが高くなります。一方、 爆発圧力が高く頑強な構造のディーゼルエンジンは機械損失が大きいため高回転化に不向きで、ガソリンエンジンの方が高回転高出力です。

排出ガスについては、ガソリンエンジンは三元触媒によって比較的容易に浄化できます。ディーゼルエンジンは、自着火燃焼に起因するスモークの発生やNOx(窒素酸化物)の排出量が多い特性があるため、排ガス浄化のための触媒システムが複雑で高価です。

●日本でディーゼル車があまり普及しない理由

圧縮比が高いディーゼルエンジンは、爆発圧力が高いので頑丈で重く大きくなり、また振動や騒音も悪化します。加えて高圧の噴射システムが必要なため、エンジンコストが高くなってしまいます。

燃費が良く、軽油も安いのに、なぜ日本ではディーゼル乗用車が普及しないのでしょうか。

それは、エンジン本体と排ガス対策のためにコストがかかりディーゼル車が高価であること、振動騒音でまだガソリン車に劣ること、欧米に比べて日本は生涯走行距離が短く低燃費の恩恵を得にくいこと、いまだにディーゼル車に「汚い、うるさい」というネガティブイメージが強いなどが理由ではないでしょうか。


ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの良いとこ取りの発想から「直噴ガソリンエンジン」や「HCCI(予混合圧縮着火)エンジン」が生まれました。従来の火花点火燃焼、圧縮自着火燃焼とは異なる新しい燃焼方式の開発が、エンジン屋の永遠のテーマです。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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