●細かい傷などの自己修復が期待できる「自己修復コート材」をチェック
2019年初頭の横浜ゴムウインター試乗会が北海道にある同社のテストコースで開催されました。その試乗会のプログラムのなかに同社が開発した「自己修復コート材」の紹介がありました。
ご存じのように横浜ゴムはタイヤをはじめとしたゴム製品を得意とする企業です。しかし手がけるのはゴム製品だけでなく多岐にわたります。そうした部門はマルチプルビジネスとよばれホースや配管、工業用資材、航空部品、電材、接着剤などのハマタイトなどが存在します。
今回紹介のあった「自己修復コート材」はハマタイト・電材事業部が開発したものです。
コート剤は塗装の上に塗るクリア塗料のようなものです。このクリアを硬くするとキズが付きにくくなるのですが、「自己修復コート材」は硬くするのではなく弾性を持たせることでキズが自然に消えていく効果をねらっています。
「自己修復コート材」の特徴は、なんといってもキズが自然に消えることです。その仕組みはコート材が弾性を持つことです。傷が付いて凹んだ部分も自然と元に戻ることにあります。
クルマのボディに塗装した場合を想定すると、洗車機キズやドアハンドルに付く爪の傷などは自己修復しやすいキズとなりますが、10円玉やキーでキズつけられたものや、飛び石などで付いたキズは自己修復しないこともあります。これはキズの深さとキズの付いたときのスピードが大きな原因で、弾性成分が引きちぎられてしまうとと、自己修復しないのです。また、ハードコート材と同じ程度の耐キズ付き性を持ちながらも、高い柔軟性も備えるため塗布後に部材が曲げられてもひびが入りにくいものとなります。
実際に「自己修復コート材」が塗られた樹脂パネルを真鍮製のワイヤーブラシでこするという実験を行いました。未処理のパネルと「自己修復コート材」を塗られたパネルをこすってみると、ほぼ同じようにキズがつきましたが、「自己修復コート材」が塗られているパネルは徐々にキズが消えていきます。しばらくすると新品同様にキズがない状態になります。
さらに翌日には、屋外にて「自己修復コート材」が塗られた実際のクルマのドアをワイヤーブラシでこすり、キズが消える実験を行いました。ただし、当日は気温が氷点下であったため、修復が早まるようにドアにお湯をかけるということを行いました。とはいえ結果は昨晩と同様、見事な復活具合です。
従来の同様に製品は塗装後の磨き処理が難しかったと言います。それは、塗り終わった状態に塗布面が戻ろうするからで、自己修復する機能が邪魔をしたというのです。しかし横浜ゴムが開発した「自己修復コート材」は、耐水ペーパーによる「ブツ」除去処理と各種バフやコンパウンドによるポリッシュ処理が可能となり、アフター市場での使い勝手が向上しています。
降雪地では雪下ろしのたびにボディをこすることになり、こうした細かいキズは大きな問題になりました。「自己修復コート材」はまだ市販が行われていませんが、今後の期待は非常に大きなものとなりそうです。
(文/諸星陽一)