【横浜ゴムウインター試乗会・その1】吸水剤3倍投入のスタッドレスタイヤでその効果を確認する

●横浜ゴムのスタッドレス技術を支える吸水剤の機能を体感

2019年初頭の横浜ゴムウインター試乗会が北海道にある同社のテストコースで開催されました。興味深い内容がいくつもありましたが、そのなかで吸水剤の含有量によって異なる氷上グリップ性能の差を報告します。

氷上でクルマがスリップする理由は、氷が溶けて水になりその水がタイヤと氷の間に存在(水膜)することが理由です。スタッドレスタイヤの氷上性能を向上するにはこの水膜をいかに除去するかが大切です。各社さまざまなアプローチでこの水分除去を行っていますが、横浜ゴムはプレミアム吸水ゴムと呼ばれるゴムを使うことによって水膜除去を行っています。

プレミアム吸水ゴムの決め手となる成分は吸水剤と言われる添加物です。この添加物には「エボ吸水ホワイトゲル」と「新マイクロ撥水バルーン」というものが使われています。この添加剤の量を増やしたら、タイヤのグリップはよくなるのか? この単純明快な実験試乗を行うことができました。

横浜ゴムの所有する北海道の開発施設には屋内氷盤路と呼ばれるものがあります。これはその名の通り、屋内に設けられた氷盤路です。風や降雪の影響を受けることなく安定した条件での試乗が可能となります。

用意された試乗車はトヨタプリウスの4WD。市販されているアイスガード6と、吸水剤を3倍に増やした特製のアイスガード6での比較です。もちろん、サイズもパターンも空気圧も同一ですから純粋にコンパウンド(タイヤ氷面のゴム)の違いだけです。

まずブレーキではノーマルのアイスガード6が10m程度で停止したのに対し、吸水剤3倍仕様では9m程度での停止と約10%の短縮となりました。単純に制動距離が短いだけでなく初期制動のフィーリングもよく、ブレーキペダルを踏んだ瞬間にガツンと制動するのが印象的です。初期の制動力が効率よく発生すると安心感が高いだけでなく、早めにフロントに荷重がかかるので効率よくブレーキが効きます。

20km/hでのスラロームではステア初期のグリップ感には大きな違いを感じないものの、徐々に厳しくなる後半ではグリップを失いません。市販品では3本目のパイロンでVSCが強力に作動しクルマの制御にかかりますが、吸水剤3倍仕様は微妙な制御にとどまり、明らかにグリップが高いことが確認できました。

これだけ性能がアップするのだったら、吸水剤をバンバン入れてしまえばいいような気もしますが、なぜそうしないのでしょうか? それはコストと耐久性にあります。

吸水剤を多くするとコストはかなり上昇し、なおかつ耐久性も落ちてしまうとのこと。またドライ性能の低下もあり、現在の仕様がスタッドレスタイヤとしていいバランスとなっているというわけです。

(文/諸星陽一)

この記事の著者

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諸星陽一

1963年東京生まれ。23歳で自動車雑誌の編集部員となるが、その後すぐにフリーランスに転身。29歳より7年間、自費で富士フレッシュマンレース(サバンナRX-7・FC3Sクラス)に参戦。
乗って、感じて、撮って、書くことを基本に自分の意見や理想も大事にするが、読者の立場も十分に考慮した評価を行うことをモットーとする。理想の車生活は、2柱リフトのあるガレージに、ロータス時代のスーパー7かサバンナRX-7(FC3S)とPHV、シティコミューター的EVの3台を持つことだが…。
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