【レッドブルエアレース2019】あの巨大パイロンの中身はなに? 潜入してみた

■巨大パイロンの中身は何が入ってる?

・接触して破損しても大丈夫なようにできています

巨大なパイロンをスラロームでかわしながら最速タイムを競い合うレッドブルエアレース。もちろん、そのパイロンスレスレを通り抜ける方がいいタイムが出るはずで、時にはパイロンに接触してしまうこともしばしば。

そんな時にはパイロンは切れてしまい、数分以内に元どおりに戻っているんですが、では、その巨大パイロンの中はどうなっているのでしょうか? 実際に使用されているものとまったく同じパイロンの中に入ってみることができました。

巨大パイロンは25mの高さ。遠くから海に浮かんでいるのを見て想像してたものよりもずっと大きいです。ビルの高さでいうと8階建てくらいでしょうか。もし最上階に上がるならエレベーター必須の高さです。

さっそく中へ入ってみます。パイロンの下に潜り込み、水平から下方向へ開くフラップ状の木製扉兼ステップを開いてパイロン内部へとズリ上がります。

内部は日本の家で言えばワンルームマンションくらいの広さでしょうか。ベッドを置いて小さめのソファとテレビを置ける? 丸いのでなんとも想像しにくいですが、直径5mといいますから、機械パレット式立体駐車場のターンテーブルと同サイズくらいでしょう。ガイドさん含め、大人8人で入りましたが想像よりも断然広いです。天井が高いからでしょうか。

つまり、天井までは当然ですが筒抜けで、テッペンの黄色い部分の内側まで見ることができます。外から見た円錐の形そのままです。

子供の頃に習った円錐の体積の公式を思い出し、その容積をざっと計算するとおよそ164m3なので、350ml缶ビールでに例えるなら、約46万本以上というその形を支えているのはみなさんご想像の通り、空気です。円錐の底面には巨大なファンが取り付けられ、外部のコントローラで大気圧よりも高い内圧が保たれ、パイロンをまっすぐに保っているのです。といっても、中に入ると一気に耳が痛くなるほどの気圧の変化ではありませんでした。確実にグッと来てる感じはあるものの、耳抜きを強いられるほどではありません。

人が出入りしたとき、一瞬てっぺんが下がり、すぐに圧力で元の高さに戻ります。

それだけの大きさの「布」ですが、上部と下部では素材が異なっています。下部は、運動会にも使われそうなテント用の布で非常に丈夫です。対する上部は、パラシュートの素材に似ているもので、面積あたりの重さはコピー用紙の4割程度とのこと。ですが、パラシュートはどこに引っ掛けても裂けてしまわないようなものに対し、レッドブルエアレースのパイロン上部は横方向にのみ簡単に裂けてしまう素材となっているそうです。

 

これはもちろん、競技中に翼が引っ掛けた時にまとわりついては大きな事故にもつながりかねないからで、サンプルを引っ張ってみると手で簡単に引き裂くことができるくらいでした。

さて、そうした裂けても大丈夫な構造のパイロンですが、裂けたままでは競技を続けられません。

そこで、修復する時には9つに別れたパーツの破れた部分を取り替えます。その取り替えて接合する部分に使われているのがジッパー、いわゆるファスナーとかチャックとか言われる構造のあれです。社会の窓にも使われているヤツです。ただし、閉じる時に使われる金属部分は取付後に作業者のポケットに仕舞われます。パイロンに付けたままだと飛行機に大きな影響を与えかねないだからだそうです。

  

その交換作業は通常5人一組で行われ、2003年導入当初は20分近くかかっていたものが、現在では2〜3分の作業時間で終了するとのこと。それだけ大きな技術革新と作業者のスキルアップがあったということですね。

競技の中断はお客さんを退屈にさせるだけでなく、競技者のメンタルをも大きく左右します。数十分の中断は競技に大きな影響を与える天候や風さえも変わってくることも稀ではないはず。そうした影響を最小限にして最高の舞台を整える運営者の姿に、巨大パイロンの中で、圧力の高さ以上にその志の高さを覚えました。

(clicccar編集長 小林 和久)

この記事の著者

小林和久 近影

小林和久

子供の頃から自動車に興味を持ち、それを作る側になりたくて工学部に進み、某自動車部品メーカへの就職を決めかけていたのに広い視野で車が見られなくなりそうだと思い辞退。他業界へ就職するも、働き出すと出身学部や理系や文系など関係ないと思い、出版社である三栄書房へ。
その後、硬め柔らかめ色々な自動車雑誌を(たらい回しに?)経たおかげで、広く(浅く?)車の知識が身に付くことに。2010年12月のクリッカー「創刊」より編集長を務めた。大きい、小さい、速い、遅いなど極端な車がホントは好き。
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