【週刊クルマのミライ】進化したホンダ・NSXに試乗。クワイエット・モードにスーパースポーツの未来を見た

ロサンゼルスオートショーでポルシェが新型911を発表していたのと同じタイミングで、太平洋を挟んだ日本で2019年モデルのホンダ・NSXに試乗していました。

場所は日本を代表するワインディングの芦ノ湖スカイラインです。3.5リッターV6ツインターボと前後で3個の駆動モーターを合成したシステム最高出力427kW(581PS)、同最大トルク646Nm(65.9kg-m)というNSXのパフォーマンスを発揮するには制限のある試乗コースですが、だからこそ見えてきたものもあったのです。

2019年モデルでの主な変更点はシャシーのセッティングにあります。タイヤをコンチネンタル・スポーツコンタクト6というハイグリップタイプとして、さらに前後のスタビライザーを引き締めました。

このタイヤ、ワインディングレベルでも発熱してグリップが高まるのを感じらるほど。タイヤの内圧はメーターで確認できるのもスポーツドライビングの味方となってくれます。また、後輪のハブベアリングやサスペンションブッシュが強化されたことで、リアタイヤからのインフォメーションが豊富になっているのも実感できます。

外観ではフロントグリルの一部をボディ同色としていたり、メッシュパーツやオプションのカーボンエアロをグロス仕上げにしていたりといった変更が目立つところ。試乗したクルマのボディカラーは目にも鮮やかなサーマルオレンジ・パール、これはマイナーチェンジで加わった有償色(8万5000円)です。

ハードウエアとしてはパワートレインの基本は変わりないのですが、ハンドリングを含めて全体にマイルドになって、なおかつリニア感を増しているのが2019年モデルの特徴。

フロントの左右独立モーターによるハンドリング制御はNSXの特徴的なメカニズムですが、初期モデルではその作動をアピールするためなのか、モーター制御がわかりやすく演出されていました。わかりやすく表現すると機能のオン/オフが明確に感じられるセッティングでした。

しかし、新しい制御ではどんなときもモーターによる制御が入っているようで、モーター制御によるハンドリングへの貢献度が大きくなっていく過程において非常にシームレスで自然に感じられるようになっています。

アクセル操作におけるパワーの出し方にしても、初期型ではわかりやすく盛り上げていた部分を抑え、操作に対するリニアリティを増すように変更されています。オプションのカーボンセラミックローターのフィーリングも踏力に合わせてリニアに制動力が高まるもので、全体として手足の延長として自然に操作できるよう進化しました。誰もが乗りやすいスーパースポーツというのはNSXが初代から掲げているテーマですが、そうした伝統を受け継ぎ、確実に進化させています。

スーパースポーツらしい非日常感は薄まったと感じるかもしれませんが、その心配はいりません。NSXはクワイエット/スポーツ/スポーツプラス/トラックという4つのドライビングモードを選べるようになっているからです。トラックはサーキット専用モードですから公道ではスポーツプラスまでしか味わえませんが、スポーツプラスでもレスポンスの向上や足回りが引き締まったのを感じることはできます。市街地をゆっくりと走るには少々ストレスを感じるほどですが、そのくらい非日常感が味わえるのです。

一方、市街地、住宅街を走るときに有効なのがクワイエット・モード。これは可能な限りEV走行(フロントのモーターのみ走る)を行なうような制御になり、アイドリングストップも積極的に行ないます。そして、この状態で走っているとNSXに乗っているという緊張感が解けてくるから不思議です。悪い意味ではなく、まるでフィットに乗っているかのような気軽な気持ちになってきます。

もちろん、目線は低いですし、フロントウインドウの先にはダクトの配されたフードが見えますからNSXというスーパースポーツに乗っていることは実感できますが、アクセル操作に対する加速感はマイルドで、扱いやすいものです。ミッドシップですからエンジンからのノイズは適度に入ってくるのですが、EV走行においてはそうしたノイズとは無縁、キャビンは静粛そのものです。

実際にEV走行が味わえる時間はそれほど長くないのですが、この手のスーパースポーツで、こうしたサイレントドライブができるというのは世界的に見ても珍しい、NSXの特徴であり個性です。現状ではスタビライザーを引き締めたことなどにより乗り心地の面ではスーパースポーツらしいテイストも残っていますが、よりEV走行距離を増やせるような制御や、可変スタビライザーの採用などにより、クワイエット・モードの魅力を高めることができれば、スーパースポーツの世界におけるNSXだけの個性が強まると感じたのでした。

そんな2019年モデルのNSXはすでにオーダーを受け付けていますが発売は2019年5月。生産台数が限られていますので、納期は半年~一年先となるそうです。メーカー希望小売価格は2370万円と従来通り。なお、試乗した個体には下記の高価なオプションパーツがついていたので、ざっと計算しても2700万円を超える仕様となっていました。

●ホンダNSX 主要スペック
車両型式:CAA-NC1
全長:4490mm
全幅:1940mm
全高:1215mm
ホイールベース:2630mm
車両重量:1780kg(カーボンセラミックローター装着車)
乗車定員:2名
エンジン型式:JNC
エンジン形式:V型6気筒ツインターボ
総排気量:3492cc
システム最高出力:427kW(581PS)
システム最大トルク:646Nm(65.9kg-m)
変速装置:9速DCT
燃料消費率:12.4km/L (JC08モード)
タイヤサイズ:前245/35ZR19 後305/30ZR20
メーカー希望小売価格(税込):2370万円

●主要オプション
カーボンファイバーエクステリアスポーツパッケージ:108万円
カーボンファイバーエンジンカバー:40万円
カーボンファイバーリアデッキスポイラー:36万円
カーボンファイバーインテリアスポーツパッケージ:34万2000円
カーボンセラミックローター+オレンジキャリパー:120万円
電動4WAYパワーシート セミアニリンレザー/アルカンターラ:32万4000円

(写真・文:山本晋也)

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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