【メルセデス・AMG C63試乗】「ミニ・ニュル」で実感。日常からサーキットまでをカバーする懐の深さと信頼性

パワートレインの印象は一般道ではその実力の僅かしか使うことができませんが、9速のAMGスピードシフトMCTは、コンフォートモードでは通常のATと変わらない滑らかなシフト制御に加えて多段化でエンジン回転も抑えられおり、510ps/700Nmというハイパフォーマンスエンジンながらも、燃費性能は高速道路での定速走行では、頻繁に作動する気筒休止機構も相まって12-13km/Lの燃費をキープしていました。

実は一般道での印象から「絶対的な走行性能が甘口になったのでは?」と心配したのですが、それは単なる取り越し苦労でした。ビルスターベルグサーキットリゾートはニュルよりもアップダウンが厳しい上に、一般的なクローズドサーキットながらエスケープゾーンも少なめです。そんなチャレンジングなコースをインストラクターの先導があるとは言ってもほぼ全開で走行です。

AMGダイナミックセレクトは「レース」、AMGダイナミクスESPは「マスター」とサーキット推奨のセットアップを選択。まず「ESP-ON」でコースインしたのですが、制御バリバリだとつまらない……と思われがちですが緻密な制御により「もしかしてAWD?」と錯覚するくらいの安定した走りです。そこから「ESPスポーツ」を選択すると、FRらしい動きの入口を安全体感できます。

しかし、このクルマの真骨頂は「ESP-OFF」の時でしょう。Rの小さなコーナーでは絶対的な車両重量で外に逃げてしまいますが、それ以外では従来モデルのようにラフな操作では火傷しそうな野獣のようなキャラクターは影を潜め、一般で感じた心地よいダルさとスポーツモデルらしいダイレクト感が共存しており、クルマが一回り小さく軽くなったと錯覚するくらいの俊敏性と、精密機器のような繊細な操作にも反応するコントロール性の高さが備わっています。

ちなみに9速化されたAMGシフトMCTは、レースモードでは変速スピードとダイレクト感などエンジンの旨みをより活かした制御でしたが、9速化で最適なギア比を使える一方でシフトビジーシフトなのも事実。マニュアルモードよりもアップ時はDレンジ任せで、シフトダウンのみパドル使用のほうがリズミカルに走れるように感じました。

もちろん、ドライバーがアクションを起こせば510ps/700Nmを活かした豪快なテールスライドも健在ですが、従来モデルよりも前方向にトラクションが掛かりやすくなったのと、テールスライドの治まりの良さに、サーキットスピードでも一度もヒヤリとすることはありませんでした。

そういう意味では、新型は走りの「純度」と「懐の深さ」が増しており、誰でもそのパフォーマンスを引き出しやすくなったと思いました。