日本の自動車メーカー・トヨタが伝統のル・マン24時間レースで悲願の総合優勝を達成してから早一ヶ月。
中嶋一貴選手がドライブするトヨタTS050 HYBRID 8号車がトツプでチェッカーを受け、表彰式で「君が代」が流れた瞬間、自然と涙が溢れてきたのは私だけじゃないはず! 一ヶ月経った今でもあの瞬間を思い出すだけで胸が熱くなり、まだまだ気分はル・マンモードです。
そんな私の元に、「トヨタ ル・マン24時間レース制覇までの4551日」という本が届きました。
著者はF1やWEC(世界耐久選手権)を中心としたモータースポーツ、および量産車の技術面を中心に取材、編集、執筆活動を行っている世良耕太さん。
世良さんはレーシングハイブリッドプロジェクトがスタートした2006年の十勝24時間レース挑戦からずっと、トヨタの挑戦を取材し続けています。
レースというとドライバーが注目されがちですが、「トヨタ ル・マン24時間レース制覇までの4551日」はレースをサポートするエンジニアやメカニックに注目。
ハイブリッドを使ったレース活動を推進してきたTMG社長、TOYOTA GAZOO RacingWECチーム代表 村田久武さんと、プロジェクトを始めた当初にモータースポーツ部の部長だった木下美明さんをストーリーの軸に置き、トヨタがハイブリッドによるレース活動をスタートした2006年1月1日からル・マン初制覇までの「4551日」が記されています。
車両開発の裏側、ハイブリッド技術の進化、ル・マンに参戦するまでの苦労など興味深い話がたくさんあったのですが、一番印象に残っているのは村田さんの言葉達でした。
2006年十勝24時間レースで、「木下も言っていましたが、個人的にはル・マンに出たいと思っています」と話したという村田さん。「ハイブリッドカーでレースに参戦する」プロジェクトの行き着く先はル・マン24時間レースへの参戦であり、そこでトヨタ初となる勝利を収めることだったのです。
そして十勝24時間レースに初出場してから6年という歳月を経て、トヨタは1992年ル・マン参戦マシンTS010と同じ「7」と「8」のカーナンバーを受け継いだTS030ハイブリッドで13年振りにル・マン24時間レースに挑みます。
「6年前にプロジェクトを始めて、いつル・マンに出られるのかわからない状況で開発を続けてきました。ギブアップした瞬間に負けです。裏を返せば、ごめんなさいと言わない限りは敗者にならない。だから僕らはしつこく開発を続けてきました。そうしたら、陽の目が見えてきた。
アメリカでCARTのエンジン開発をやっているときも似たような話があって、7年間勝てませんでした。当時はさんざんばかにされて、背中で泣きながら歩いていました。そのとき当時の副社長がこう言ったんです。『富士山を見ろ』と。『上の方には雲がかかっているだろう。雲の中を歩いているときは、どこまで歩いたら頂上に出るのかわからない。だけど、雲を突き抜けた瞬間にそこに頂上があるかもしれない。成功するときはそんなものだ』と。石の上のも三年と言いますが、もう6年です。
『そのうち化石になるかも』と冗談を言ったこともありましたが、ル・マンに出ることができました。諦めずに頑張れば、いいことがあるかもしれません」(村田久武)