6/16~17にフランスのル・マン、サルトサーキットで開催された第86回ル・マン24時間耐久レースに出場したTOYOTA GAZOO RACING のTS-050ハイブリッド8号車(中嶋一貴/セバスチャン・ブエミ/フェルナンド・アロンソ)は、388周を周回しトップでチェッカーを受けた。同チームの7号車(小林可夢偉/マイク・コンウェイ/ホセ・マリア・ロペス)が386周で2位に入り、日本車初の1-2フィニッシュを飾った。
中嶋選手は2012年より、ル・マン24時間とWECに参戦開始。2014年にシリーズタイトルを獲得したが、ル・マン24時間では2014,16年の過去に2度もトップ走行中にマシントラブルでリタイアをした経験があり、特に2016年は残り5分を切ってのリタイアという2度のハードラックに遭遇している。そして今年F1ワールドチャンピオンのフェルナンド・アロンソが加入し、緒戦スパ・フランコルシャン6時間に優勝していた。
今年のWECはポルシェが撤退した事で、シリーズ最高クラスLMP1(ルマンプロトタイプ1)に参戦する自動車メーカーはトヨタだけとなった。2018年も継続参戦を表明、し勝って当たり前と思われがちだった中でトヨタは昨年末で空力開発を凍結、オーガナイザーによる性能調整も受け入れる事とした。現在は空力性能が大きな影響を占める最高速ではプライベーターのレべリオンに後れを取るなど、12kmのうち6km(2km×3)と直線の占める割合の大きなサルトサーキット(ルマン)では性能調整如何によっては苦戦も予想された。
3人のワールドチャンピオン(中嶋:WEC/ブエミ:フォーミュラーE/アロンソ:F-1)を揃えた8号車はポールポジションからスタート。
時折7号車と順位を入れ替えながら、タイヤのスローパンクチャーなど幾度かのトラブルも乗り越えて走行を続けた。最終スティントは中嶋選手が担当、無事チェッカーフラッグを受けた。
中嶋選手は日本人3人目、日本車に乗車した日本人としての初勝利を飾った。トヨタは1985年にTOMSをサポートする形で参戦を開始。途中幾度かの休止を挟みながら初参戦から33年目、19回目の挑戦で栄冠を手にした。
日本車としては1991年のマツダ787B以来、27年振りの勝利となる。
また、トリオを組んだアロンソ選手は世界3大レース(F-1モナコGP,ル・マン24時間,インディ500マイル)のうちモナコGP、ル・マンに勝利。残るインディ500を制覇すればグラハム・ヒル以来2人目となるトリプルクラウン:三冠達成者への挑戦権を得た。尚、現在他に2レースを制しているのは現役ドライバーではファン・パブロ・モントーヤ(モナコ,インディに勝利)だけである。
トヨタ自動車株式会社 代表取締役社長は次のコメントを発表した。
「思いっきり走ってくれて、ありがとう!」
20回目の挑戦にして誰より長い距離を走ってくれたドライバー達みんなに向けてこの言葉を送ります。
同時に、388ラップ、5,300キロ余りを走りきったクルマ達にもこの言葉をかけてあげたいと思います。
そして、
「思いっきり走らせてくれて、ありがとう!」ずっと、この戦いを支えてくださったファンの皆さま
共にクルマを作り上げてきたパーツメーカーの皆さま
心ひとつに戦ってきてくださったパートナーの皆さま
そして、現場で戦い続けたチームのみんなに今、伝えたい言葉です。みんな本当にありがとう!
19回一度も勝てなかった我々は、ただひたすらライバル達の背中だけを見て、それより速く走るクルマを作れば勝てるだろうと新しい技術に挑み続けていました。
しかし19回繰り返しても勝てない。
「クルマを速くするだけではル・マンには勝てないんだ!我々には“強さ”がない!強いチームにはなれていない!」
昨年のレースの後、私は思わずチームに声を荒げました。チームはゼロからのやり直しとなり“なぜ強さがなかったのか?”それを考えるところからの再出発となりました。
そして、チームが、考え、辿り着いたのがトヨタが大切にし続けている「改善」という考え方です。
クルマをつくるひとつひとつの作業…走らせる為のひとつひとつのオペレーション…それに向かう一人一人がどうしたらミスが起きないかを考え、それを徹底する。そうするとまた次にやるべきことが見つかっていく。
欠けていた「強さ」を身につけようと1年間ひたすらに改善を繰り返し、積み重ねてきました。
思えば、敵わなかったライバル“ポルシェ”は元よりそうした強さを身につけていたのだと思います。今年、直接、競い合うことはできていませんが、それに気づかせてくれたポルシェなど、偉大な過去のライバル達にも、改めて感謝いたします。
レースの前、チームの一員から私にメッセージが届きました。
「今年はドキドキが止まりません。ただひたすら改善を重ねてきましたが、それで分かったことは、改善に終わりはないということでした。それを知ったことがドキドキの原因だと思います。足りない部分が、まだどこかにあるはず…ゴールの瞬間まで仲間と、もがき続けます。モリゾウさん、見守っていてください」
これを読み、このチームは“強さ”を身につけ始めたと感じることができました。
ゼロから作り直してきたチームだからこそ今回はなんとしても結果を残して欲しい…。だから、今年は現場にいられずとも全力で見守ると決め、そして一緒に戦うことができました。
このレースで戦うクルマを今、我々は、将来の市販車にしていこうとしています。
「改善に終わりはない」というトヨタの現場では当たり前の言葉をモータースポーツの現場の彼らが身をもって理解し、勝利に結びつけたことでそれは実現に向けた大きな一歩を踏み出せたと思います。
悲願だったル・マン24時間レースでの勝利を、我々はようやく手にすることができました。
この瞬間を、諦めずにずっと待ち続けてくださったファンの皆さまと、今日は心からの笑顔で1日を過ごしたいと思います。
しかし、これは、また次の戦いの始まりであり、次なる改善が始まります。改善に終わりはありません。明日から、次の夢の実現に向け、また一緒に戦っていただければと思います。
また最高の笑顔で過ごせる日を目指して、引き続き、トヨタガズーレーシングを、よろしくお願いします。
2018年6月17日
トヨタ自動車株式会社
代表取締役社長 豊田章男
(川崎BASE)