「人間中心」のマツダが目指す「躍度」をコントロールする走りとは?

雪国、雪道の運転で大事なことは? 意のままにコントロールすること。そこで重要なのが躍度(やくど)であるといいます。

躍度とは、日常生活での感覚でいえば、ジェット機に乗って離陸する時、滑走路をゆっくり進んでいたと思ったら急にエンジン音が上がりぐっと背中や後頭部がシートに押し付けられたときに「すごい加速だ」と感じるとき=躍度が大きく、そのエンジン音が一定になると加速していることが感じなくなる=躍度は小さくなっているのです。新幹線が駅を出て、数百キロまで加速しているはずなのに普通に車内を歩けるのはゆっくりと加速している、つまり一定加速度で加速している=躍度がほとんどないからです。

数学的・物理的に言えば加速度の変化率。加速を微分することで加速度がどのくらい増えているか、一定なのか、減っているのかを表す尺度です。

一言で言えば、加速や減速が急に増えたり減ったりしているときが躍度が大きいと言えるわけです。前後に限らずコーナリングの左右にも同様の概念が当てはまります。

この躍度が大きい動きは、クルマの挙動が不安定になり、乗員が不安や不快に感じているという状況だというのです。

雪国ではクルマの運転をする前にやることが、まずは自分のガレージから公道へ繋がる部分の雪かきだそうですが、そのときに使う靴のそこは厚く、感覚が伝わりにくいものです。そこで目からの情報や、手や肌から伝わる感覚も重要となります。

そんな雪上では低い速度域でも大きく車両の挙動が変化するので、車両のコントロールに重要な躍度を体感できるわけです。

加速度は速度の変化、躍度は加速度の変化、加速度の変化していく勢いを表します。加速度が一定になったら躍度はゼロになります。電車の加減速に例えると、吊革も持たずに立っていられるのが0.1くらいの躍度となっているそうです。

実際に躍度計が備えられたマツダ車に雪上で乗ってみます。

まず前後の躍度について。雪上での加速は、現在の最新のスタッドレスタイヤ、全輪駆動システム、トラクションコントロールなどにより加速することはさほど難しくはありません。しかし、それでもラフにアクセル操作を行うとタイヤは瞬時に空転の挙動を見せかけてすぐにおとなしくなりますが、躍度計は一瞬大きく振れることがあります。

そんな時は、予想よりも頭が後ろに持っていかれる感覚で、同乗者にはカクンとさせちゃうかな、と思われます。

そしてブレーキでは、やや意図的にキュッと踏むと一瞬顔がフロントガラスに近付きます。ABSのおかげで車両は何事もなく停止しますが、おそらく助手席に乗っている人は、「大丈夫か?この人の運転」と思わせたはずです。

また、スラロームでは、タイヤの限界になるべくハンドルを切るのも戻すのもゆっくり丁寧に行うと躍度は大きくなりません。それはおのずとスムーズな車両の挙動となり、同乗者も不快感は少ないだろうと思われます。

このように、タイヤを滑らさずに路面へ力を加えるとで、その力は最大限に発揮できます。

それは、タイムトライアルでも明らかになります。

日常の動きでなるべく速くタイムを競うようなシチュエーションで、躍度をある程度超えたらペナルティというもの。いかにスムーズに運転するかがタイムアップに繋がります。

ここで、マツダのほぼ全車に採用されるGVCの効果でもあることに気付きました。

私自身、急激な動きは不快だと感じていましたが、それを実現させた「上手い運転」はなかなか難しいと実感していました。

では、それが実現可能に近付くクルマがあればいいわけで、マツダはそれを目指しているというのです。

「アクセルを踏んだだけ加速して、ブレーキを踏んだだけ減速する」と当たり前のことですが、それが人間の感覚にあっているかは難しいものがあるのです。で、それは車種によっても、メーカーによっても違っています。その入力と反応をマツダは一番大事に真剣に考えているように思います。

試乗の際は、アクセルをギュッと踏んだり、ステアリングをスパッと切るのではなく、ゆっくりと動かしてみて、それが自分に合っているのかを確かめることに集中して乗ってみることをお勧めします。

(文:clicccar編集長 小林 和久/撮影:前田 惠介)

この記事の著者

小林和久 近影

小林和久

子供の頃から自動車に興味を持ち、それを作る側になりたくて工学部に進み、某自動車部品メーカへの就職を決めかけていたのに広い視野で車が見られなくなりそうだと思い辞退。他業界へ就職するも、働き出すと出身学部や理系や文系など関係ないと思い、出版社である三栄書房へ。
その後、硬め柔らかめ色々な自動車雑誌を(たらい回しに?)経たおかげで、広く(浅く?)車の知識が身に付くことに。2010年12月のクリッカー「創刊」より編集長を務めた。大きい、小さい、速い、遅いなど極端な車がホントは好き。
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