メルセデス・ベンツのロータリーエンジン搭載車「C111」に試乗【RE追っかけ記-7】

RE追っかけ最高の2台、マツダ787Bとメルセデス・ベンツC111でした。

1973年12月、シュトウトガルト・テストコースで試乗したC111

787Bは欧日元レーシングドライバー・ジャーナリスト試乗立会いでしたが、C111はおそるおそる走らせていただきました。

ヴァンケルRE開発メーカー会議における(右から)山本健一東洋工業RE兼部長、ウルフ-ディーター・ベンジンガー・ダイムラー-ベンツRE開発部長、ダンクヴァルト・アイアマン・ヴァンケル研究所技師。

ダイムラー・ベンツは、早々とヴァンケルREライセンスを取得し、生産車(SL)搭載を目指し開発を開始しました。指揮したのは、乗用車エンジン開発部長のウルフ-ディーター・ベンジンガー博士です。博士は第2次大戦のドイツ空軍主力エンジンのひとつ、DB 601倒立V12エンジンのさらなる性能向上の手段として、キノコ弁に代えた回転円盤バルブ研究試作しました。魚雷などの気密シーリング・エクスパートのフェリックス・ヴァンケルの助力を得たと言います。

メッサーシュミットBf109。カウリングを外している珍しい光景。液冷V12を倒立マウントしている。

ベンジンガー博士は、高性能GT( SL)のエンジンとしては、マルチローターが必要と考えたのです。マルチ化するには、エクセントリックシャフトを組立式とします。メッサーシュミットBf109で有名なDB601は、クランクシャフト支持とコンロッドビッグエンドにローラーベアリングを用いています。クランクシャフトはヒルト接手を使った組み立て式です。

1955/56メルセデス-ベンツ300SLR (W196S)の直列8気筒エンジン。

戦後、ベンジンガー博士は、メルセデス・ベンツ乗用車エンジン部長として、新型エンジン開発の指揮をとります。究極の高性能エンジンがF1とスポーツレーシングカー用M196直8です。DOHC、スプリングを使わない機械開閉バルブ(デスモドロミック)、筒内直接燃料噴射、鋳造シリンダーの金属板ブロック嵌め込みなど、気の遠くなるような先端技術を用いました。DB601と同様、クランクシャフト支持、ビッグエンドはローラ=ベアリング、そしてヒルト接手組み立てクランクシャフトです。1955、56年のF1、スポーツレーシンカーで無敵の強さを発揮しました。

ヒルト接手は、接続面に歯型を刻んでいる。アメリカの工作機械メーカーは、『カーヴィック・カップリング』と称し、同社から歯切り機を購入した東洋工業(マツダ)もそう呼んでいる。写真はクランクシャフトではない。

メルセデス・ベンツの REマルチ化には、当然ヒルト接手、組み立てエクセントリックシャフトを採用しました。ただし、ベアリングは、プレーンです。非常に精密な加工と組み立てを要したと聞きましたが、性能、耐久性で問題が発生しなかったのはDB601、M196の技術があったからでしょう。

メルセデス・ベンツSL・3ローター・プロトタイプ。DBのRE開発中止により、SLはV8搭載となる。この世代のセンタートンネルが高いのは、アウトプットシャフト位置の高いREの名残り。

 

SLの3ローター。直噴、ペリフェラル吸排ポート、1スパークプラグ。

C111は、RE実証とイメージ向上目的の実験車でした。1号車の完成は1969年でした。ファイバーグラス・ボディ、ガルウイングドアのミドシップエンジン、2シーターです。フロント・ダブルウイッシュボーン、リア・マルチリンク・サスペンションを採用。1、2号車はM950F・3ローター、直噴エンジンでした。1970年には4ローターを搭載、最高出力257kWを発生し、最高速は300km/hオーバーと発表されました。

寒く、まだウエットが残るテストコース。

天上の方の予防対策なのでしょうか、前回300SLRでは夕立射撃(雨粒がすごく痛い)、C111では前夜の小雨が凍結し、駐車場でも足を取られました。

乗り降りは、生産SLガルウイングより楽なくらい。インテリアは、メルセデス乗用車風GTの快適。開発ドライバー、「上の方は問題ないでしょう」と加速。90度バンクでは、カメラを持つ手が上がらないG! 次の一周、ステアリングホイールを預けられましたが、慎重に加速。クラッチ、ギアボックスともに乗用車の滑らかさ。直線の加速は、フヒューッとでも形容する音と信じられない滑らかさ。バンクでは失神した外部ドライバーがいたと聞き、ドライな下車線をクルーズ。強烈で滑らかな印象の記憶です。

C111搭載の4ローター。

この時、C111車体は現役でした。 RE中止後、ターボV8、そしてディーゼルを搭載し、速度記録を樹立しています。ディーゼル記録のドライバーの一人が畏友ポール・フレールです。

メルセデス-ベンツRE工房。

山口京一