RE追っかけ最高の2台、マツダ787Bとメルセデス・ベンツC111でした。
787Bは欧日元レーシングドライバー・ジャーナリスト試乗立会いでしたが、C111はおそるおそる走らせていただきました。
ダイムラー・ベンツは、早々とヴァンケルREライセンスを取得し、生産車(SL)搭載を目指し開発を開始しました。指揮したのは、乗用車エンジン開発部長のウルフ-ディーター・ベンジンガー博士です。博士は第2次大戦のドイツ空軍主力エンジンのひとつ、DB 601倒立V12エンジンのさらなる性能向上の手段として、キノコ弁に代えた回転円盤バルブ研究試作しました。魚雷などの気密シーリング・エクスパートのフェリックス・ヴァンケルの助力を得たと言います。
ベンジンガー博士は、高性能GT( SL)のエンジンとしては、マルチローターが必要と考えたのです。マルチ化するには、エクセントリックシャフトを組立式とします。メッサーシュミットBf109で有名なDB601は、クランクシャフト支持とコンロッドビッグエンドにローラーベアリングを用いています。クランクシャフトはヒルト接手を使った組み立て式です。
戦後、ベンジンガー博士は、メルセデス・ベンツ乗用車エンジン部長として、新型エンジン開発の指揮をとります。究極の高性能エンジンがF1とスポーツレーシングカー用M196直8です。DOHC、スプリングを使わない機械開閉バルブ(デスモドロミック)、筒内直接燃料噴射、鋳造シリンダーの金属板ブロック嵌め込みなど、気の遠くなるような先端技術を用いました。DB601と同様、クランクシャフト支持、ビッグエンドはローラ=ベアリング、そしてヒルト接手組み立てクランクシャフトです。1955、56年のF1、スポーツレーシンカーで無敵の強さを発揮しました。
メルセデス・ベンツの REマルチ化には、当然ヒルト接手、組み立てエクセントリックシャフトを採用しました。ただし、ベアリングは、プレーンです。非常に精密な加工と組み立てを要したと聞きましたが、性能、耐久性で問題が発生しなかったのはDB601、M196の技術があったからでしょう。
C111は、RE実証とイメージ向上目的の実験車でした。1号車の完成は1969年でした。ファイバーグラス・ボディ、ガルウイングドアのミドシップエンジン、2シーターです。フロント・ダブルウイッシュボーン、リア・マルチリンク・サスペンションを採用。1、2号車はM950F・3ローター、直噴エンジンでした。1970年には4ローターを搭載、最高出力257kWを発生し、最高速は300km/hオーバーと発表されました。
天上の方の予防対策なのでしょうか、前回300SLRでは夕立射撃(雨粒がすごく痛い)、C111では前夜の小雨が凍結し、駐車場でも足を取られました。
乗り降りは、生産SLガルウイングより楽なくらい。インテリアは、メルセデス乗用車風GTの快適。開発ドライバー、「上の方は問題ないでしょう」と加速。90度バンクでは、カメラを持つ手が上がらないG! 次の一周、ステアリングホイールを預けられましたが、慎重に加速。クラッチ、ギアボックスともに乗用車の滑らかさ。直線の加速は、フヒューッとでも形容する音と信じられない滑らかさ。バンクでは失神した外部ドライバーがいたと聞き、ドライな下車線をクルーズ。強烈で滑らかな印象の記憶です。
この時、C111車体は現役でした。 RE中止後、ターボV8、そしてディーゼルを搭載し、速度記録を樹立しています。ディーゼル記録のドライバーの一人が畏友ポール・フレールです。
(山口京一)