ボディサイズでいうとアコードクラスのセダンといえる「クラリティ」は、ホンダの燃料電池システムが持つ湿度コントロールや温度管理の巧みさにより、開口部も小さく、空力ボディに仕上げられています。
空気抵抗を減らすために前後のタイヤで起きる乱流を整えるエアカーテンやリヤタイヤはフェンダーを伸ばしてカバーしているほど。
こうした外観の印象から、またホンダというブランドのイメージから、さぞスポーティな燃料電池車になっているのだと思いきや、意外にもジェントルな乗り心地に感じられたのです。
クラリティもそうですが多段変速機を持たないモーター駆動の電動車両というのは、まさしく段付き感のないスムースな走りがセールスポイントとなります。さらに車両重量が1.9t近いという重さもあってか、重厚でフラットな乗り心地を実現しているのです。
とはいえ、モーターをレスポンス良く働かせるだけのリニアな電気供給ができているので、加速感に重さのネガは感じません。
たとえるなら、大排気量のV8エンジンと多段ATを搭載したFWDサルーンといった印象を、運転していても後席に座ったときにも感じたのでした。
だからといってホンダがスポーティさを忘れているわけではありません。
燃料電池車ながら「スポーツ」モードを持つクラリティ。その「スポーツ」ボタンをプッシュすれば、アクセルペダルだけで加減速をコントロールしやすくなり、これまた車重を感じさせないリズミカルな動きを味わえます。
手応えのあるデュアルピニオン電動パワーステアリングや、高圧水素タンクを支える強固なサブフレームからアームを生やしたリヤ・マルチリンク式サスペンションといったシャシーに投入されたメカニズムからもハンドリングへのこだわりが感じられます。
燃料電池車としての完成度だけでなく、内燃機関車の目指す理想的な面も持つ「クラリティ フューエルセル」。価格だけでなく、乗り味においても、現時点におけるホンダの頂点であるといえそうです。
(写真・文 山本晋也)