かつてBMWのバイクもクルマと同じ足クラッチ、手シフトだった!【F2P Vol.12】

シフト! – ガチャガチャ鈍器からバターを切る熱いナイフ。

お元気なドライバーの皆さん、国産車、輸入車にMT機種が増えたこと、大歓迎されています。

優れた MT車が多く出現しているのはうれしい限りです。
優れた MT車が多く出現しているのはうれしい限りです。

これぞ、運転の楽しみとおっしゃいます。この醍醐味、アメリカはオレゴン州発電所技師の発想のおかげなのです。

自動車大発展期1920年代、彼はクラッシュボックス(衝突ではなく、シフトの「ガチャ」音)の不便と不快を除去するギア同調機構を考案し、特許を取得した。キャデラック技術部長が可能性ありと感心、丁度その頃新設したGM全体で先進技術探求部門に発明者のアール・トンプソンの身柄と開発を託しました。

1928年、キャデラックが生産開始したモデルを皮切りに、シンクロ-メッシュMTは、たちまち大半のクルマが採用するようになります。1933年キャデラック・355型V8。
1928年、キャデラックが生産開始したモデルを皮切りに、シンクロ-メッシュMTは、たちまち大半のクルマが採用するようになります。1933年キャデラック・355型V8。

しばらくし、トンプソンが技術部長を訪れ、「故郷に帰ろうと思います。全然、開発が動いていません」。大企業が新部門をつくると、配属された訳のわからない連中がアイデアの否定を業績にする悪い癖が働いたのです。部長さん、即座に彼に少数の専任の積極型技術者を配属し、いまMT愛好者が恩恵を受けている「シンクロ-メッシュ(当初は横棒でつなぎました)」が生産化したのです。

 

感嘆するのがクラシックカーのクラッシュボックスを自在に操作するエンシュージアストの方々です。何千万、いや億の価値のあるクルマでレースをなさり、中には派手なクラッシュ(ガチャ音ではなく、ぶつかる方)までなさいます。さるエクスパートの駆る1927年型レーシングスポーツカーに同乗する機会がありましたが、手、足の動き、見事なものです。スタートでエンストすると、降りて手で始動クランクを回さねばなりません。

クラシックカーを駆るエクスパート。エンジン回転計が2個ついています。シンクロ以前のギアボックスのダウンシフトは、見事なダブルクラッチング。
クラシックカーを駆るエクスパート。エンジン回転計が2個ついています。シンクロ以前のギアボックスのダウンシフトは、見事なダブルクラッチング。

私が16歳で小型車免許を取得した際の運転練習で感じたのは、「なぜ、左足でクラッチを踏み、手でレバーを動かし、右足を踏みながら左足を上げるという動作を連続してやるのか。不自然、不合理だな」でした。これが、楽しみに変わっていくのですから、また奇妙なものです。ムカシも、私と同じように考えた技術者がいたようです。彼らのが考案し、つくりだした新機構のひとつが「プリセレクター式」トランスミッションです。

1930年代、英小排気量スポーツカー、ラゴンダ・レイピアのAT風ゲートのレバーは、手でギアを前もって選び、左足ペダル踏み込み、離しでチェンジする“プリセレクター”。
1930年代、英小排気量スポーツカー、ラゴンダ・レイピアのAT風ゲートのレバーは、手でギアを前もって選び、左足ペダル踏み込み、離してチェンジする「プリセレクター」。

最近、1930年代のクラシックカーで体験させていただきました。エンジンスタート後、まずレバーでファーストに入れます。左足で踏むペダルは、クラッチとは呼ばず、ギアチェンジペダルで、踏み込み、離すとギアが入り発進します。即、レバーをセカンドに動かします。適度な速度に達し、左足ペダルを踏み、戻すとシフトアップします。手と足は同時には動かしません。「プリセレクト」つまり前もってレバーで選び、ペダルでシフトします。

1960年代初半、私は在英していましたが、ロンドン市2階バスの大半LT型は、プリセレクター・トランスミッションでした。ドライバーの手動レバー、左足シフト(英語ではチェンジ)ペダルの操作を後ろから眺めたものです。

ロンドン市2階バスRT型はプリセレクター・トランスミッション。以前の重いクラッチ、クラッシュボックスの重労働からドライバーを解放する革新メカだったのです。
ロンドン市2階バスRT型はプリセレクター・トランスミッション。以前の重いクラッチ、クラッシュボックスの重労働からドライバーを解放する革新メカだったのです。

しかし、1日、何百回のペダル操作は重労働というので、新型ルートマスターRMに切り替わりつつありました。 RMは2ペダルATでした。

 

1908年に登場したのがフォード・モデルTは、自動車の普及に大きな貢献をしました。1928年までに世界中で1500万台を売りました。モデルTの運転は、現在の常識からすると、じつに変わっています。トヨタ博物館のご厚意で、体験させていただきました。

フォード・モデルTのレバー式アクセレレーターにびっくり。
フォード・モデルTのレバー式アクセレレーターにびっくり。

まず、キーでマグネトか電池モードを選び、左コラムレバーで点火時期を遅角、右コラムのアクセレレーターレバー(足ではありません)をちょっと動かします。車外に出てラジエーター下のチョークレバーを動かし、クランクを回し始動します。すぐに点火を進めます。左端ペダルをいっぱい踏み込むとローギアが入り、フルに上げるとハイギアにシフト。中間がニュートラルで制動時使用します。真ん中のペダルは後退用です。右端ペダルはブレーキですが、車輪ではなく駆動シャフトを押さえる方式ですので、たいした制動力は出ないので、ほとんどエンブレで減速します。4気筒エンジンのトルクがあるのでハイに入れ、トコトコ走り、最高速は65km/hに達します。

フォード・モデルTのペダル。左:ロー、ニュートラル、ハイ選択。中:後退選択。右:駆動軸締め付けブレーキ。
フォード・モデルTのペダル。左:ロー、ニュートラル、ハイ選択。中:後退選択。右:駆動軸締め付けブレーキ。

モデルTのトランスミッションは、遊星ギアを用いています。欧米の多くのクルマのトランスミッソンが遊星ギア型でした。1904年のキャデラックは、3速遊星ギア式です。コーンクラッチで発進した後は、レバーのみでシフトできました。ご存知のように、現在の多段ATは遊星ギア方式ですし、プリウスE-CVTも遊星ギアの巧妙な使用例です。少数派には、ホンダの有段ATの2軸コンスタントメッシュ型があります。

フォード100周年イベントのひとつが、カリフォルニアからミシガンまで4800kmを走ってきたオーナーたちのフォード・モデルT群。
フォード100周年イベントのひとつが、カリフォルニアからミシガンまで4800kmを走ってきたオーナーたちのフォード・モデルT群。

モーターサイクルのトランスミッションも往時は手シフトレバー、足クラッチでした。シフト時には、ハンドルバーから手を離さねばならず、エンジンをかけ、ギアを入れて停車時は、片足でクラッチを押し込むので、他の足でクルマを支えねばなりません。「スイサイドクラッチ」のニックネームをつけられました(スイサイド=自殺は大げさですが)。

1933年から1934年BMW R-7コンセプト・H形シフトパターンが見える。
1933年から1934年BMW R-7コンセプト・H形シフトパターンが見える。

1933/34年、BMWが試作した素晴らしい未来デザインR—7の鋼板プレスフレーム上の自動車的Hパターンレバーが特徴です。

第2次大戦後、現在のレバークラッチ、フットシフトが通常になりました。私のBMW、BSA輸入社時期、試乗車を借りに来る専門誌若手君に、「BMWは左シフト、右ブレーキ、BSAが左ブレーキ、右シフト」を必ず説明したものです。

奇妙なことに、1950年代、フットシフトになったBMW R68、R51/3トランスミッションには、フットシフトに加え、ギアボックス右側に通称“メカニックのシフトレバー”が生えていた。シフトできるのだが、当時、輸入商社に居た私にも用途不明。
奇妙なことに、1950年代、フットシフトになったBMW R68、R51/3トランスミッションには、フットシフトに加え、ギアボックス右側に通称“メカニックのシフトレバー”が生えていた。シフトできるのだが、当時、輸入商社に居た私にも用途不明。

(山口 京一)