今年のロサンゼルス・ショーは、いつになく盛り上がりを見せました。なんと今年は、35車種ものワールドプレミアがあったのです。そのうちの注目株のひとつが、マツダ「CX-3」なのです。ショー前夜、ハリウッドの一角にあるスタジオで限られたメディアだけに一足先にその姿が披露されました。
スタジオ内はコミュニケーション・カラーの「ソウルレッド」を意識したかのような作りで、真っ黒なインテリアのスタジオ内に入ると、赤を基調にした照明が舞台を照らしています。さて、どんなクルマが登場するのかしら?と待ち構えていると、小飼雅道社長と北米・マツダのジェームズ・オサリバン社長兼CEOといった経営陣が簡潔な挨拶をした後、デザイン部門を統括する前田育男氏にバトンを渡しました。
「魂動デザインの要素として重視しているのは、必要以上に飾らないことです。どうしても、線や面で飾りたくなってしまうのですが、そこをぐっとこらえて引き算をしていくのがキモです。複雑なデザインで強い印象を与えても、飽きられては仕方ない。『CX-3』ではたった3つしか面がありませんし、ラインもそぎ落としています。また、ラインナップの中でも、特にバシッと切り落としたようなラインで構成される直線的なスタイリングを心がけました」
変に飾り立てずに、ご自分の言葉を選んだプレゼンテーションは、とてもすがすがしくて、心に響くものでした。
さて、そろそろ実車を紹介していきましょう。LAショーは、「デザインと環境のショー」というイメージが強いだけに、当然、デザインに注目が集まるわけですが、「CX-3」のそれは見事にその期待に応えたスタイリングです。BセグメントのSUVといえば、日産「ジューク」、ホンダ「ヴェゼル」、といったところが仮想敵ですが、そのセグメントは車高が高めでサイズが小さいという制約があって、どうしてもモコっと盛り上がったデザインになり、ブランドのデザイン哲学からいくぶん外れたものであることが多いのが常です。
しかし、マツダ「CX-3」に限っていえば、Kodoデザインのライン上にのっているように思えます。215/50R18の大ぶりなタイヤを履いてホイールアーチが強調されたスタイリングを纏うのはSUVルックの定石なのですが、金属の塊の中から直線的なラインでさっと切り出した彫刻のようなフォルムは、同セグメントのライバルたちのころっとした姿とは一線を画します。全長×全幅×全高=4275×1765×1550mmのボディサイズに2570mmのホイールベースを持つことから「デミオ」をベースに設計されたことは想像がつきますが、コンパクトなクルマという感じはしません。
マツダでは、ユーザー層に若いカップルなどに想定しているというけれど、実際にはミニバンなどからのダウンサイザーで小さなクルマに乗っていると思われたくないという層にも受けそうな気がします。サイドウインドーからリアに向かって黒いパネルをデザインすることによって、SUVルックながら低く疾走感のあるスタイリングに仕立てています。
五角形グリルが最近のマツダ一族らしい顔立ちで、全体から受ける印象は紛れもない魂動デザインなのですが、ディテールに目を向けると、兄貴分の「CX-5」や弟分の「デミオ」とは意外なほど似ていません。ボンネット上の2本のキャラクターラインがAピラーとボディサイドの抑揚へと分かれていき、ここでも躍動感を感じさせます。サイドバンパーに立体的なシルバーの加飾を設けたり、リアドアのハンドルを斜めにつけたりと、このデザインを生かすために細部まで心配りがなされているのです。アクセラ以降お馴染みのインフォテインメント機構「マツダ・コネクト」も搭載されています。内装の質感も、特筆に値する。「デミオ」でも内装の上質感に驚いきましたが、「CX-3」でも同じ驚きがありました。
そして心臓部は、アメリカでは2LガソリンのスカイアクティブG、日本では1.5LディーゼルのスカイアクティブDのみが導入される予定です。エンジンの選択肢は少ないですが、トランスミッションはMT/AT、駆動方式は2WD/4WDのすべての組み合わせが選べる。マツダ得意のディーゼル+MT+ヨンクの選択ができるのは、他にあまり例がありません。
想像される価格帯は、「デミオ」の1.5Lディーゼル・ユニット搭載モデルよりは高そうですが、「アクセラ」の2.2Lディーゼルや「CX-5」のエントリーモデルよりは手頃な設定と想定すると、200万円台半ばいったところでしょうか。発売は来年の3月ですが、2015年の東京オートサロンで日本でもお披露目されるそうです。
(川端 由美)