5月20日、7代目となる新型ゴルフの発表会が開催されました。場所は、代々木第一体育館。すべてを貸し切っての一大イベントとなりました。
ジョルジョットジウジアーロさん(右)と、ワルター・デ・シルバさん(右)
7代目ゴルフにも注目ですが、その発表会でいちばんの注目だったのが、スペシャルゲストの登場でした。初代ゴルフをデザインした、ジョルジェット・ジウジアーロ(74)さんと、VWグループのデザイン・ディレクターのワルター・デ・シルバ(62)さんが現れたのです。
ジウジアーロさんのデザイン会社「イタルデザイン・ジウジアーロ」は、VWグループの傘下となっていますが、その陰にはデ・シルバさんが初代ゴルフを非常にリスペクトし、また重要な存在と捉え、その思いからも関係が成立したとの話も聞こえてきます。
発表会場は代々木第一体育館。入り口や会場内には歴代ゴルフもずらり。
発表会では25分ものトークセッションが用意されたのですが、その司会は何と元アウディ・デザイナーの和田智さんでした。和田さんはアウディA6、Q7、A5などをデザインしましたが、そのときの上司がデ・シルバさんでした。
実は今回の発表会の面白いところは、報道関係者だけでなく、ゴルフのオーナーやデザイン学校の学生たちも招かれていたことです。
ジウジアーロとデ・シルバさんのトークセッションは、まずは会場である代々木第一体育館のデザイナーである丹下健三さん(実は今年9月で生誕100周年)への賛辞で始まり、初代ゴルフの話から、美しさとは、そしてデザインとは何かという話にまで発展し、極めて貴重なコメントが次々と伝えられました。
なかでもジウジアーロさんの印象的なコメントを要約して記しておきましょう。
デザインとは?
「私たちはエゴイストです。人とは違ったものを作りたいという思いを常に持っています。しかし、そこには機能性が無ければなりません。作り手だけが良いと思うだけではだめで、使う人たちに良いと理解してもらえるものを作る必要があるのです」
美とは?
「日本には伝統的に美しいものがたくさんあります。着物、建築、文化、ライフスタイル、これらは欧州からは憧れを持って迎えられています。それだけに、美しさとは何かと日本人の和田さんから聞かれると困惑してしまうほどです。美という概念が外から来たものなので、分からなくなるのかもしれません。しかし、美しさとはあなた方の中にこそあるのだと思います」
会場内には歴代ゴルフを配置。これらはすべて現役。オーナーの好意で展示された。
最後にカーデザイナーを目指す学生に向けては、デ・シルバさんとジウジアーロさんのコメントを記しましょう。
ワルター・デ・シルバ
「倫理という問題を意識することです。何も後ろを振り返る必要はありません。またファッションや、トレンドを追うことも必要ないのです。クルマとは6-7年売り続けなければならないものでもあるりますから、その長い時間のことも考える必要があると思います」
ジョルジェット・ジウジアーロ
「日本の建築はマジックのようなもので、特に大げさでもなく誇張もしないが美しい。大きく変えてしまうことは簡単ですが、バランスの取れたものが重要だと思います。そのためには、目をよく見開くことです」
ここでは書ききれませんが、非常に多くの話が聞かれた発表会でした。また和田さんのサプライズな質問で、今までで印象に残るクルマとは?(正直に)との質問に、デ・シルバさんは
「シトロエンDS19です。デザインとは訓練であり学問であるのですが、いろいろな全体を知ったうえで、勇気を持って作り上げたのがDS19でしょう。誰もが達し得なかったもので、私はまだあのクルマを勉強中だといえるでしょう」
続けてジウジアーロさんは
「私もDS19で同感です。カーデザインをインダストリアル・デザインに近づけたクルマです。これまでに存在しなかったモダンさを、産業化できたのです。台数はそれほど売れなかったが、私と彼がこのクルマを選んだのは偶然ではないはずです」と語りました。
シトロエンDS19 (1955)独特なスタイルが魅力
ともすると、走り過ぎてしまいがちなのがデザインの世界ですが、自分の足元を見ることの重要性を2人のマエストロに教わった1日でした。
またVWゴルフオーナーにとっては、新型車への興味が高まることも去ることながら、ゴルフの生まれる背景がしっかりと理解でき、よりいっそうの愛着が生まれたようです。また、デザイン学校の学生にとっても非常に勇気をもらった発表会となったようです。こんな発表会は、他には見たことがありませんでした。
(MATSUNAGA, Hironobu)