〈Mondaytalk星島浩/自伝的・爺ぃの独り言44〉 「軽乗用車で犬を膝に乗せていた男が警官に捕まった」という。まさか、それだけで逮捕は考えられないから、職務質問を逃がれようとしたか、あるいは警官に食ってかかった業務執行妨害か。体長50㎝で、高さ40㎝というから中型だろう。が、もちろん犬に罪はない。
私も犬は大好き。でも都心は集合住宅の一室だし、茨城の隠居小屋は留守がちで、ペットを飼うわけにいかず、近くで食堂を営む夫婦の愛犬にビスケットを与えに行くのが楽しみになっている。この犬が可愛いんだョ。
中1まで過ごした神戸の実家には私が生まれる前から犬がいた。姿・形が秋田犬似で、いくらか誇らしかったのに、訊かれると父は「いいえ、純粋の雑種です」と。
大叔母に預けられ、ときどきしか実家に帰らなかった私にも、よくなついていた。縁側に腰掛け、足で戯れていると「手で撫でてやりなさい」と祖母に叱られ「犬にとっては足も手も同じじゃないの?」と言い返したものだが、小3のとき老衰死。犬に有効な入れ歯があれば、もっと長生きできたろうに。庭の隅に埋葬して墓石を積んだ。
猫もいた。小5のとき、捨てられていた子猫を抱いて帰ったら、元の場所に戻してこいと母に叱られ、牛乳だけ飲ませて、自転車で200mほど離れた原っぱに置き去ったのに、寄り道してる間に、猫のほうが先に我が家の玄関まで帰ってきて鳴いていた。幼い猫でも憶えていたのかしら。
結局「鼠が出なくなるかもしれない」と母も折れて飼うことになり、可愛がっていたのだが、室内には出なくなったものの天井裏での鼠の運動会は、その後も続いた。ただし米軍の空襲で焼け出された際、どこに逃げたのか、行方不明のまま。焼け跡を訪ねても現れずじまい。閑話休題。
私が犬をクルマに乗せる機会に恵まれたのは約15年後。中古ルノー4CVを買い、下宿を卒業。「雑種犬」を飼っていた知人宅の飼い犬だ。
見知らぬ人には吠えまくる犬なのに、知人が嫉妬するほど私とは相性がよかったようで、招き寄せると4CVにも乗り込んでくる。
「ほんとうは生まれて間もない幼犬から乗せてやらないと、優れた猟犬には育たないんだけどネ」なんて、知ったかぶりを披露し、初めは菓子を買いに行く、ごく近くから、お終いは箱根ドライブまで、少しずつ同乗距離を延ばしていった。案外、犬は車酔いしやすく、幼犬期から少しずつ慣らしておいたお陰で、箱根でも房総半島の海岸までも喜んで従いてきた。
ただし乗せるのは決まって後席。助手席だと、ガールフレンド? が毛など見つけて嫌がるかもしれないと考えた。猟犬はステーションワゴンかライトバンの荷室だが、4CVは後席に限られる。
前席の間に顔を覗かせて近寄りたい素振りを見せることがあっても断固阻止。その代わり公園があると駐め、一緒に走り回って遊ぶ。
エアコン普及以前である。クーラーを稀に見かける程度。その点、わが4CVは、暑ければ窓ガラスを開けるが良し。冬はヒーターが使える。犬は暑いのが苦手で、寒いのは大歓迎。でも、こちらが風邪を引くのはイヤ。適度に温風を出し、後席窓を少し開けてやれば平気で付き合ってくれた。
知人が定年で故郷に越していったため犬ともお別れ。でも2年ほど後に立ち寄ったら、憶えていたらしく勢いよく飛びついてきた。
都心では戸外より屋内で飼われる犬が多い。マンション住まいだと、ペット飼育を禁じる例が少なくない。我が家の近くには飼育可能なマンションもあるが、共用部分は飼育禁止。歩かせてもいけないとあって、小型犬は飼い主が抱いて通る。笑っちゃうのが、中・大型犬だ。朝の散歩にも犬が乳母車に乗って出てくる。エレベーターと廊下を過ぎて、玄関扉を出るや、小躍りして乳母車から跳び降り、甘えている。
クルマに犬を乗せる場合の注意は、私が在籍した下町スピードクラブに全国白バイ競技会で優勝した警官がいて、聞いた話がある—-ペットをクルマに乗せるのは構わないが、助手席はやめたほうがいい、と。ベルトや鎖で縛りつけるわけにもいくまいから、なにかの拍子で犬が運転者の膝にやってくるかもしれない。
それだけで道交法違反は問えないだろうが、問題は犬が視界や運転操作を妨げかねない場合だ。正常な運転操作ができない状態と判断されると事故が起こらなくても違反切符を切られる可能性あり—-私が後席にしか乗せなかったのは些か動機不純だが、おそらく冒頭の「逮捕劇」は「正常な運転ができない」と判断されたためだったろう。★