「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」を発表した村上春樹はマツダ好き?

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」という小説のタイトルには見えないような新しい単行本が、4月12日に発売!と発表された村上春樹さん。

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年/村上春樹

個人的にファンで、おおよそ村上さんの作品は読んでいるつもりです。もちろん、「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」も即、買い物かごへ入れちゃいました。

小説に限らずですが、クルマ好きとしては作品に登場する車両のキャラクターやその使われかたなどが非常に気になるところです。バックトゥザフューチャーのデロリアンやLOVE BUGのVWビートル、ディズニーの青い自動車、ボンドカー各種などの主役クラスのものはもちろんですが、さり気なく登場する車両こそ、時代背景やキャラが気になるものです。

その点、村上さんの小説ではちょいちょいクルマが車種名で登場するのも特徴だと思います。一番新しい「1Q84」では、単なるタクシーでなく「クラウンロイヤルサルーン」が出てきます。「静かなタクシーの車内」というのがLPGのタクシー仕様車でなくロイヤルサルーンのクラウンであることが重要で、現在と1984年が交わる物語としてはどっちの時代にもあっておかしくないあたり、わかってる感があります。セドリックブロアムじゃ、現在に戻れません。

ですが、私は「海辺のカフカ」に登場する「マツダ・ファミリア」がお気に入りです。

四国で借りれるレンタカーとして登場するファミリアですが、その登場は古く1963年まで遡ります。海辺のカフカの刊行が2002年で、そのころの販売車両がコチラ。

P.KASHIWAGI 150MM FLEXFRAME LH93CM F11  5/6  1s 本番

これは「SPORT20」というグレードのためスポイラー類が付いていますが、レンタカーにはついていない目立たないものだったのでしょう。カラー写真なのにモノクロ写真に見えるくらい目立たないですね。作中でレンタカー屋さんの「目立たないことにかけては神仏をかけて保証いたします」とのセリフがありますが、読んでいて「うんうん」とうなずいてしまった記憶があります。このレンタカーに乗るのは作品中で癒し系のとても愛すべきキャラです。

ちなみに名字が同じでほぼ同世代の作家である村上龍さんの「半島を出よ」(2005年刊行)にもファミリアが登場します。ところがこちらは、シングルマザーが子供の送り迎えにアウディなどで行きたいのに経済的にムリがあってやむを得ず乗っているという設定。さらにこのオーナー、物語の中ではあまり好かれるキャラではありません。

この時点の「半島を出よ」内では2011年の設定。ファミリアは2003年すでに生産終了しており、その存在も「?」となるのでした。マニアックですが福岡の人がみんな佐世保弁で喋るのもちょっと気になりましたが、小説は凄くオモシロいです。おススメです。

どちらにしてもファミリアを作ったメーカーとしてはあまり嬉しくないかもしれません。

ただ、海辺のカフカに話を戻すと、主人公の見方となる登場人物が緑色のロードスターに乗っています。その使われかたは非常に読んでいて小気味いいもので、クルマの気持ち良さと重なり合うところがあります。

緑のロードスターVスペシャル(1989)

村上春樹さん自身もロードスターにお乗りになっていたという話もどこかで読みました。その辺りから、少なくともマツダというメーカーになにかしら思い入れとか理解があるんじゃないかと想像します。

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」にどんなクルマが実名で登場するか、楽しみです。

(小林和久)

この記事の著者

編集長 小林和久 近影

編集長 小林和久

子供の頃から自動車に興味を持ち、それを作る側になりたくて工学部に進み、某自動車部品メーカへの就職を決めかけていたのに広い視野で車が見られなくなりそうだと思い辞退。他業界へ就職するも、働き出すと出身学部や理系や文系など関係ないと思い、出版社である三栄書房へ。
その後、硬め柔らかめ色々な自動車雑誌を(たらい回しに?)経たおかげで、広く(浅く?)車の知識が身に付くことに。2010年12月のクリッカー「創刊」より編集長を務める。大きい、小さい、速い、遅いなど極端な車がホントは好き。
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