このタイヤはトレッドパターンのルックスからちょっと変わっていますね。ストレートグルーブが基調となったトレッドデザインなのですが、細かいサイプ(細い溝)を採用しているところに興味を引きます。見るからに“滑らかに転がして乗り心地をよくしたい”という意思を感じるからです。
また縦溝も太いので、排水性能も見た目以上に高そうな印象ですし、内側にオフセットして外側のブロックを大きくしているところも気になる部分です。これらの見た目から判る特徴が何を意図しているのかを、実際の走りで理解しようと思って試乗を始めました。
最初に気がつくことは、とにかくタイヤがスムーズに転がっているということです。斜めの溝がサイプ状になっているため、タイヤが地面に接地するときの当たりが優しく、滑らかな転がりを感じられるのです。
またタイヤと地面の当たりが優しいため、タイヤから発せられるパターンノイズが凄く少なくないところも特筆すべき点です。全体的にタイヤから聞こえてくる音圧が低く、耳障りな音は一切しません。ざらついた路面でもロードノイズよりも風切り音のほうが目立つくらいで、凄く静かなタイヤであると言えます。これらのことから、乗り心地と静かさに重点を置いて開発されたタイヤだということが試乗してすぐに判りました。
少しスピードをあげてコーナリングすると、思ったよりもタイヤのケース剛性が高いことに気がつきます。車重に負けないしっかりとした骨格を持っていて、ステアリングの蛇角に対する応答性も良好です。
特にリヤタイヤの動きが素晴らしく、ノーズだけが向きを変えるようなタイヤではないのです。リヤタイヤも一緒になって曲がりたい方向へ行こうとしてくれるためハンドリングは非常に軽快です。これは最初に気になっていた外側のブロックを大きくしていることが作用しているのでしょう。応答性の良さを狙ったブロック剛性チューニングで、静かで滑らかな乗り心地なのに適度なスポーティさも兼ね備えた秀逸な性能に仕上がっています。
あえて“もう少し良くなれば素晴らしい”という点を挙げるのであれば、ニュートラルステアでの直進安定性がもう少し欲しいくらいでしょうか。とはいえ、これは高価な部材を使って作らなければ出ない性能ですので、コストパフォーマンスを考えれば、十分すぎるくらいのレベルには達しています。
これらのことから、求めている性能とコストをよく考えてタイヤの構造を吟味し、コンセプト通りに仕上げられたコストパフォーマンスの高いタイヤと言えます。静かさや乗り心地の良好さと共に、適度なスポーティさもありますので、欲張りな性能を求めつつ、実売価格にもシビアな30~40代くらいの世代に向いているタイヤだと思います。
(斎藤 聡)
NITTO830オフィシャルページ http://www.nittotire.co.jp/products/nt830/index.html