乱暴な例で恐縮ですが、日本において日常性能が時速200キロ超のクルマを造るのは、雪が降らない南国で超高性能スタッドレスタイヤを開発するようなものだと感じていました。物理的な数値性能は達成できても、「生身の文化と環境」が伴わなければ本当の意味での実力が宿らないからです。
そんな中、新型レクサスGSでは大きな方向転換が行われました。レクサス本部長の伊勢さんは、アウトバーンとニュルブルクリンクで鍛え上げられた超絶走行性能を誇るベンツ・BMW・アウディの「ジャーマン・スリー」を走行性能のターゲットに置いたのです。
「今までのレクサスの走りが、欧州のライバルに勝っていたか、というとまだ足りない部分もあった。それを追いつくには何をすればいいか、ということです。GSはジャーマン・スリー(メルセデス・ベンツ、BMW、アウディ)に対して走りで絶対に追い抜く。それには専用のシャシーが必要だったわけです」
これまでプレミアムカーといえば、圧倒的な走行性能を誇るドイツ勢プレミアムカーを指していました。そこへ、ラグジュアリープレミアムともいうべき、日本発レクサス・インフィニティ・アキュラが参入していきました。日本やアメリカの法廷速度という条件内で「快適・豪華で走りも超一流!」を狙った仕上がりです。レクサス以外は、日産スカイラインやフーガ、ホンダアコードなどが日本名で発売されていますね。しかしながら運動性能をはじめ、ドイツ勢に及ばない領域が数多くあったことも事実でした。
そして遂にレクサスが、ジャーマン・スリーを名指しでライバル視した訳ですが、日本メーカーではほとんどはじめてじゃないかしら?「日本車もいよいよここまで来た!」というのが、率直な印象です。
しかも走行性能向上には強靭な骨太ボディが必須ですから、どうしても低中速域のゴツゴツ感を招きがち。それでも走行性能のために、アイデンティティの「快適静粛&高級豪華」を犠牲できるはずがありません。伊勢さんのコメントからは、強い自信と決意が伺えます。
「やはり、エモーショナルな走りですね。今までのレクサスの走りは、高級車としての穏やかさ、まっすぐしっかり快適に走る、という観点が中心で、アグレッシブさ、ファントゥドライブが不足していた。それからレクサスの課題として、オーナーの年齢層が上がっている、という問題があります。やはり若い人が乗りたくなる、憧れられるようなクルマじゃないと、高級車として成りたっていかなくなると思うんです。そういう意味でもアグレッシブさが前に出てこないといけない。そのひとつがデザインであり、走りです。」
新型GSが目指した領域は、まさに「ジャパンプレミアムとジャーマンプレミアムの両立」と言い換えることができると思います。ただし「ジャーマン・スリー」もディーゼルターボとダウンサウジングターボによる「エコ&野太トルク」戦略を展開して、新たな個性を強烈に押し出して来ましたから、これからのプレミアム争いが大いに楽しみです。
(拓波幸としひろ)