クルマは世界中の自動車関連企業に勤める技術者の叡知が結集した製品です。だからイロハの「い」にあたる基礎技術は、検討し尽くしていると思っていました。
ところがです。マツダの技術陣はクルマの基礎技術をゼロから洗い直し、固定観念を打破する道を選びました。そして遂に高価な素材や新技術を使わずとも、基礎技術の大幅なレベルアップに成功したのです。
でも「言うは易し行うは難し!」ですよね。そこでここでは「熱効率の向上」を目指したスカイアクティブエンジンについて見ていきたいと思います。
ガソリンエンジンにおいては圧縮比を上げれば熱効率が改善するものの、ノッキングが発生するためむやみに上げられないのが「常識」でした。マツダ技術陣は、高圧縮比の対策を洗い出す中で、4-2-1エギゾーストマニフォールド(俗称:タコ足)がスムーズな排気を促し、ノッキングに有効だと突き止めたのです。
(一般的な)4−1排気システムの場合、排出ガス同士がぶつかり合い燃焼室に押し戻されてしまう。4−2−1システム(タコ足)では排出ガスが合流するまでの距離が確保でき、燃焼室内に残る高温の排出ガスを大幅に低減。高圧縮比でもノッキングが起こりにくい。
そして「スカイアクティブ-G」で、世界トップの「圧縮比14」(海外仕様)を達成しました!
ただし、残念ながらレギュラーのオクタン価が低い日本では「13」に留まりました。当然ハイオク仕様にすれば「14」にできたはず。おそらく昨今のガソリン高を考慮し、名より実を取る方を選んだのでしょう。
またディーゼルエンジンでは低温始動性を確保するために、高圧縮比を採用するのが「常識」でした。なにしろ点火プラグを持たない自然発火システムですからね。ただ通常の走行時においては、圧縮比が高すぎてエンジン効率が悪かったのです。
そこでマツダは圧縮比を下げて全域効率アップにチャレンジしました。難題の低温始動性はグロープラグと超高圧インジェクター、排気バルブの可変リフト機構の三位一体対策で解決に至ったのです。しかも、尿素や高価な触媒を使わずに、クリーンエンジンを生み出したのですから素晴らしい〜。
圧縮比は世界最小の14。低温始動性は、セラミックグロープラグと2000気圧のピエゾ式高圧インジェクターによる噴霧の微細化で対応。排気バルブに設けた可変リフト機構で吸気行程中に高温の排気を吸い戻し、吸気を温めて極冷間のアイドリングや走行に必要な温度を確保する。PM対策にDPFは必要だが、NOx処理用の後処理装置を使うことなく、日米欧の最新排ガス規制をパスしてみせたのだ。
こうして誕生した「スカイアクティブ-D」は、エンジン性能もさることながら、とてもリーズナブルな価格で発売されました。「スカイアクティブ-G」とは、圧縮比が同じの双子エンジンなのですね。そのため生産効率がすこぶる良く、コスト面でも非常に有利なのだそうです。
「ディーゼルエンジンは頑丈で値段も高い」という「市場の常識」までも打ち破ったのですから、「スカイアクティブテクノロジー」には凄みすら感じる次第です。
(拓波幸としひろ)