「開業時はドイツ大使館にもお願いに行きました」初音ミクBMW、エントラント代表StudieAG鈴木社長に訊く その3 開業秘話【痛車 スーパーGT】

初音ミクBMW、エントラント代表StudieAG鈴木社長ロングインタビューの第三弾です。

COXでBMWチューニングパーツの担当になった鈴木氏。しかし代理店権を他社に奪われCOXはBMWチューニングから撤退。しかしBMWを捨て切れなかった鈴木氏は一念発起しCOXを退社。自ら専門のチューニングショップを立ち上げようとします。その時、鈴木氏は26歳。

-- 26歳でショップを開業しようとなさるのはいいとして、資金はどのように集めたのですか?

鈴木「貯金や親からの借金で1000万円は用意できたんです。でも、自分の思うようなショップを作ろうとすれば、どうしても3000万円が必要。残りの2000万円は金融機関からの借金となります」

-- でも、その年齢で貸してくれる銀行なんてありましたか?

鈴木「もう、ほとんどが門前払い。何度も何度も色々なところに申し込みに行って、それこそ国とか県とかの開業融資なんかも申しこみましたが、やっと担当者に会えても実績を積んでからまた申し込んでください、て。実績が無いから開業するのに無茶なことを平気で言うんですよね」

-- 借りなきゃお店が作れないのにひどい話ですよね。

鈴木「でも、当時は貿易黒字が激化していて、もっと外国製品を輸入しましょう、なんて政府が叫んでいた時代です。僕がやろうとしているショップはドイツ製品の輸入促進に繋がるわけですから、これを誰かに理解してもらおうと思い、いっそのことドイツ大使館か?ということでドイツ大使館に思いの丈をぶつけて手紙を書いたんですよ。僕はBMWのショップを作ってドイツ製品をどんどん輸入するから、と」

-- いきなり大胆な作戦に出ましたね。

鈴木「出し方もわからないからドイツ大使館の郵便受けに直接入れに行きました(笑」

-- おーっ!で、反応はどうだったんですか?

鈴木「手紙を出してもドイツ大使館からは反応はなかったんですが、しばらくして横浜市の中小企業金融公庫だったかな、正式な名前は忘れちゃいましたがお役所がやっている金融機関から呼び出されたんです」

-- ドイツ大使館が動いたとか?

鈴木「大使館が動いてくれたかどうかは担当者のかたから聞くことも出来なかったんですが、いきなり融資が決まってしまったんです。僕自身はドイツ大使館のおかげだと思いこんでいますが、真実は謎のままですね」

-- うわーっ。ドラマみたいだ。

鈴木「本当にドラマみたいでしたね」

-- そこで横浜市にお店を立ち上げたと言うことですね。でも最初のお客さんが来てくれるまでは結構大変だったんではないですか?

鈴木「COXでもサービスとか窓口をやっていたわけではなくインポーター部門でしたから直接お客様を自分の店に誘導できると言うわけではなかったんです。でも当時はBMWの専門ショップと言うのが存在しなかったんですよ。メルセデスとかVWとかをやっているショップがBMWもやっているっていうのが普通で・・・」

-- そうだったんですか。意外ですね。

鈴木「だからCOXでインポーターをやっていたときに知り合ったメディアの方々がBMW専門ショップと言うことに興味を持っていただいて、オープン前から記事にしていただいたりしてたんです。そして、メルセデスとかの片手間でBMWをやっているようなショップの方にも、うちを紹介していただいたりしたものですから、最初のお客様はなんとオープンの前日にいらしていただいたんです」

-- それはすごい!

鈴木「まだ店の什器だとか機械だとかを取付中なところだったのでお客様にもご迷惑をかけてしまったのですが、その方がいらしていただいて本当にうれしかった」

-- そこから日本初のBMW専門チューナーとしての活動が始まったのですね。

鈴木「そうですね。まずはお客様にBMWの世界観と言うものを感じてもらうために入りやすいお店を心がけてこれまでやってきています」

-- そのためにはアミューズメントも充実してますよね。

鈴木 「ドライブゲームは最新のFORZAもあります。そこにおいてある3のセダンはグランツーリスモを車内でできるように作ったんですよ」

-- ホントだ。ハンドルがグランツーリスモになってますね。

鈴木「昼間だとゲームしづらいんですけど、夜ならばっちりです。ポリフォニーさん(グランツーリスモ制作会社)に言って、BMWだけを表示してもらうようにチューンしてもらったソフトです。BMWなら隠しマシンも全部選べるようになっていますよ」

-- こういうところから世界観を拡げていくわけですね。

鈴木「うちに遊びに来ていただけるならBMWに乗っていない方でも大歓迎です。うちに来てBMWを感じてもらえれば、僕はそれがうれしいんですよ」

筆者はとことんBMWを惚れぬく鈴木社長の姿勢に感動を覚えます。惚れぬいたからこそ岩をも徹すような、それこそ誰が考えても無理だと思う融資にも漕ぎつけたのですから、思いの強さは重要です。

ロングインタビューの次回は、2011年GT300チャンピオンマシンである初音ミクBMWの売却についてお話を伺います。乞うご期待。

(北森涼介)

この記事の著者

松永 和浩 近影

松永 和浩

1966年丙午生まれ。東京都出身。大学では教育学部なのに電機関連会社で電気工事の現場監督や電気自動車用充電インフラの開発などを担当する会社員から紆余曲折を経て、自動車メディアでライターやフォトグラファーとして活動することになって現在に至ります。
3年に2台のペースで中古車を買い替える中古車マニア。中古車をいかに安く手に入れ、手間をかけずに長く乗るかということばかり考えています。
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