FT-86に隠された「あのクルマ」のモチーフとは!?

日本車のエクステリア・デザインは近年でも海外、特に欧州車のデザインを参考にするケースが散見されます。少し古いところではトヨタの2代目アリストのフロントフェイスはW210型Benz Eクラスをかなり意識していたようです。

当時としては画期的な丸型独立4灯タイプのヘッドランプなどがその代表的な事例で、アリストは丸型では無く、少し崩したカタチにしてBenzソックリにならないように配慮はしていたようですが、アイデア自体は同じものでした。

またアリストは4ドアスポーツ・サルーンという新ジャンルを築いた画期的なモデルでもあった訳ですが、その後2009年になって今度はポルシェが同様の高級スポーツサルーン、「パナメーラ」をデビューさせました。

そのサイドビューを見れば一目瞭然なのですが、アリストが一番の特徴としていた「一筆書き」と称する「ワンモーション」のウインドウ廻りを大いに参考にしているのが見てとれます。案外、欧州カーメーカー勢も個性的な日本車のカーデザインについては意識しているものなのです。

そこで本題ですが、2012年春にデビューが噂されるFT-86の事例を紹介しましょう。このクルマ、2009年の東京モーターショーでコンセプトモデルとして華々しくデビューした訳ですが、その後、2011年のジュネーブモーターショーでFT-86Ⅱとして外観を大幅にリファインしたのは記憶に新しいところ。それが改善か改悪かは別にして、大きな抑揚を伴うマッチョな意匠に変貌しています。

ともすると纏まり過ぎて退屈だったFT-86の意匠に対してメリハリを持たせる為に前後フェンダー廻りに強烈なフレアを追加したのものと思われますが、それに目を奪われて見過ごしてはならないのが、実はサイド・ウインドウ廻りの変化。

画像をよく見ると意匠のニュアンスがFT-86Ⅱでかなり変化している事が判ります。具体的には同じスポーツカージャンルのポルシェ・ケイマンのモチーフを取り入れたようです。

と言ってもにわかに信じられないと思うので、ウインドウ廻りだけを切り出してみましょう。ケイマンはキャビンが小さな2シーターでFT-86Ⅱは4シーター。そこで判り易くする為にケイマン側の画像を前後にエクステンドしてプロポーション・バランスを整えると・・・このとおり。

如何でしょうか? 何処にでも有りそうなケイマンのデザインですが実は独特のニュアンスを持っているのです。FT-86Ⅱへの進化の過程で躍動感を前面に押し出したことで、それに見合ったキャビン・デザインが必要だったのでしょう。ポルシェ・ケイマンのウインドウ廻りを参考にしつつ、スポーティさを創出したものと推測されます。

そして興味深い事実として、このFT-86Ⅱの意匠を統括したデザイナーは前述の2代目アリストのエクステリアデザインも担当していました。 その本人が流暢な英語でデザイン・コンセプトを説明している動画が存在します。

http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=4xGDA1IAkZY

ポルシェとトヨタFT-86、一見、何の繋がりも無さそうですが、実はカーデザインの世界ではデザイナー同士が古くからお互いの作品を暗黙のうちに意識し合っていたのかもしれません。

こちらも併せてお読み下さい。 https://clicccar.com/2011/06/15/33756

(Avanti Yasunori )

【画像がすべて見られない方は>>> https://clicccar.com/41010

この記事の著者

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Avanti Yasunori

大手自動車会社で人生長きに渡って自動車開発に携わった後、2011年5月から「clicccar」で新車に関する話題や速報を中心に執筆をスタート、現在に至る。幼少の頃から根っからの車好きで、免許取得後10台以上の車を乗り継ぐが、中でもソレックスキャブ搭載のヤマハ製2T‐Gエンジンを積むTA22型「セリカ 1600GTV」は、色々と手を入れていたこともあり、思い出深い一台となっている。
趣味は楽器演奏で、エレキギターやアンプ、エフェクター等の収集癖を持つ。
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