いま見るとカッコよく見える!? 少し前のちょいブサなクルマたち【CAR STYLING VIEWS 8】

人の目や感覚には「慣れ」があって、常識はいつしか風化していくことがあります。特に流行にも影響されやすいデザインの分野では、普遍性を求めるのは非常に大変なことなのかもしれません。また逆に発表当時は当たり前のこともでも、今見ると非常に新鮮に見えるということもありそうです。今回は非常に私的な見方ですが、そんなモデルをいくつか紹介してみましょう。

たとえば歩行者保護のデザインとしてボンネットの位置が高くなって久しいのですが、この形にわりと知らないうちにならされてしまったと思いませんか?

2005年に登場した2代目ブルーバード・シルフィは、登場当時にはそのボンネットの高さに違和感があったものですが、現在ではほとんど気になりません。

シルフィに限らず、多くのクルマのボンネットは高くなっている。美的感覚も移り変わる…

 

その後、多くのクルマがボンネットの高い造形となってきたうえに、そのなかでよいバランスを生み出すべくヘッドライトを大きくしたりAピラーを前に出したり、または面積的に大きなフェンダー部分にキャラクターラインを入れるなどの工夫がなされてきました。ボンネットの高いクルマが、いろいろなデザインで登場することで、いつしか高すぎると感じていたボンネットは当たり前のことになってしまったのです。

今見ればマッシブ・コンパクトみたいな”いい感じ”な初代イスト。

 

また2002年に発表された初代ist(イスト)も、当時はちょっと特異なクルマにも見えたのですが、現在ではかなりトレンディに見えたりします。個人的には2007年に発表された2 代目よりも魅力的なほどです。ここにはその間に人気を得てきた、4WDとクーペを合わせたようなクロスオーバー的なコンセプトが一般的に認識されてきていることもひとつの要素かもしれません。

大きなオーバオフェンダーと背高なスタイルはオフロード的な4WDをイメージさせ、その上に小さなハッチバックのパッケージを構成することでコンパクト・クロスオーバー的なイメージを生んでいるように感じます。

そうした観点ではさらに、1999年に発表された初期型のミラージュ・ディンゴも同様のコンパクト・クロスオーバーのテイストではないでしょうか。当時としては余りに奇異に見えた縦型ヘッドライトは2001年に一般的な横長なものに変更されたのですが、大型の縦長ヘッドライトが一般化した現代ではもはや奇妙なものではありません。

今見るとけっこういけてる、というか普通に見える初期型ミラージュ・ディンゴ。

 

またちょっと意味合いは違いますが、ダイハツ・エッセ(2005年~)はリヤゲートの傾きとリアバンパーのバランスがちょっと不釣り合いで、バンパーが大きく見えてしまう感じがしていました。

このバランス感がキュートに感じられるようになったエッセ。5MTも普通にランナップ。

 

しかし現代では必要にして十分な、飾りっ気のない簡素な造りに見えます。虚飾やエモーショナルなうねりの造形に飽きてきた、まさに今のあっさり好みの時代に合ってきている感じですね。バンパーが大きく見えることなど“それがどうした?”と思えるほどです。(まぁちょっとルノー5に似ていますけどね…)

1988年にマイナーチェンジを受け上質さをプラスした初代トゥデイ。パーソナル・アクテイビティ・ギアといった感じ。

 

そして初代ホンダ・トゥデイはどうでしょうか? 当時も印象的なクルマでしたが、今になってみればこの低い全高と低いシートポジションはスポーティなんてものじゃなく、スポーツカーの域です。ヒップポイントが高くなるなかで、禁断のレイアウト的な見え方もしてきます。軽く両手を広げれば収まってしまうほどしかない小さな軽自動車だからこそ、息を呑むくらいの魅力を感じませんか。

こんなに小さかったけど、そこがまた魅力的。

 

いまクルマに係る価値観はどんどん変わってきています。当たり前とか、カッコ悪いななんて思っていたものも、改めて見るとその良さに気が付けるかもしれません。

 

(MATSUNAGA, Hironobu)

写真がすべて見れない人は>>>https://clicccar.com/40376