東日本大震災による電力不足の話題から逆風が吹いていると思われがちな電気自動車(EV)ではありますが、いやいや次世代車としては最有力候補のひとつ。
なにしろ1バレル110ドルを超える原油価格の高騰、そもそもピークオイルといわれる需給バランスの崩れなどなど、化石燃料を燃やす内燃機関が未来永劫にわたって安泰というわけでもなく、化石燃料を使わない自動車の進化と普及は待ったなしの状態です。
しかし、EVのウィークポイントとして挙げられるのは一充電での航続距離。バッテリーを大量につめば航続距離は伸ばせるものの、ただでさえ重量物であるバッテリーを大量につむのは効率面から不利。また現在の主流であるリチウムイオンバッテリーは高価で、それをたくさん搭載することはコスト面からも避けたいところ。
そのためコスト的に有利で、なおかつエネルギー容量の大きなバッテリーが求められているわけです。
そして、こうした状況を打ち破るバッテリー方式として開発が進められているひとつが、いわゆる「空気電池」。プラス極の活性物質に空気中の酸素を利用するため、従来のリチウムイオンバッテリーよりもエネルギー容量を増やせるのが魅力です。
そして、ついに日本の技術開発おける最先端組織といえる独立行政法人 産業技術総合研究所、通称「産総研」が画期的な「リチウム-空気電池」の開発に成功した、というニュースが飛び込んでまいりました。
最大のポイントは、プラスの空気極にレアメタルなどを使わず、グラフェンを用いた電池を開発したこと。この画期的な空気電池は、グラフェンが酸素を還元する触媒効果を持つことを発見したことにより生まれたのであります。
グラフェンといえば2010年のノーベル物理学賞を獲得した研究テーマでもありましたから、聞き覚えのあるひとも少なくないかもしれません。グラフェンとは、鉛筆の芯などにも使われている黒鉛をハチの巣のような六角形に並べたシートのこと。
黒鉛を使っていることからもわかるように、従来のレアメタルなどと比べれば、かなりのコストダウンが期待できる素材というわけ。つまりグラフェンを使った「リチウム-空気電池」はエネルギー密度が高く、低価格なEV用バッテリーの実現化につながる大発見といえるのです。
もちろん、こうした基礎的な技術が商用化されるまでは、それなりに時間は必要とはなりますが、次々世代くらいのEVにおいて「リチウム-空気電池」が常識となっている可能性は否定できません。”あの地震があったころに日本の産総研が発表した技術だったなぁ”と思い出す日が来ることを、いろいろな意味で期待したいものです。
(山本晋也)