「東北地方太平洋沖地震」の影響で出版業界にも暗雲が立ち込めてきました。実は、さまざまな雑誌の搬入&発売が間に合わないという緊急事態が発生しているのです。
雑誌制作にかかわる仕事をしたことがある人ならばみなさんご存知だと思いますが、「締め切りを守る」。これが業務上一番大事なことなんです。なぜなら、刷り上がった雑誌の納品期日が超厳格に定められているからです。
雑誌の搬入遅れは万死に値します。ボクも出版業界長いですが、この搬入遅れを一回やらかしたことがあります。その時は半日ほど巨大な物流センターのラインをストップさせ、何百台というトラックを足止めしてしまいました。というのも、各出版社の雑誌を仕分けしてまとめて発送するので、1銘柄が遅れるだけで、その日発売の日本中の物流をすべて止めることになってしまうからなんです。だから「締め切りは守る」っていうのが非常に大事なんですよね。
そんな決まりを厳守することで、さまざまな雑誌が全国の書店やコンビニでちゃんと発売日に並ぶことになるんです。このきっちりとした流通インフラを支えているのが取次という問屋、そしてその取次に支配されているのが出版業界なんです。
信じられないことに、こんなに厳格なシステムの中、雑誌が搬入日に入れられない、発売日に書店に届けられないという不測の事態に出版業界が陥っています。いままで発売日が遅れるなんてことはなかったはずなのに・・・
その現状を順を追って説明します。
①用紙がない
雑誌の原料となる輪転機用の紙の在庫が極端に不足しています。理由は製紙工場の被災です。大手製紙メーカーの「日本製紙」は宮城県の石巻と岩沼に工場がありましたが、両方とも甚大な被害を受けて製造を中止、復旧の見通しもつかないとのことです。
また、ほとんどの製紙メーカーは東京湾岸沿いに中継のための保管倉庫を利用しているのですが、埋立地のため液状化現象で道路が損傷し、搬出ができない状態になっています。同様、在庫も被災し納品できる状況ではないそうです。大手でも大王製紙など、被災していないメーカーもあるのですが、出版社からのオーダーが殺到していて需要に応えることは事実上ムリだそうです。
②印刷が予定通り出来ない
雑誌の印刷は24時間体制で行います。搬入日が厳格に定められているので、輪転機も厳格なスケジュール管理で各社の雑誌を印刷していくのですが、先日始まった「計画停電」で印刷スケジュールの見通しが立たなくなり、効率が低下しているそうです。
③配送出来ない
東北の被災地への配本はもちろん止まっていますが、取次(出版問屋)の契約運送業社の多くが地震復興に回され、書店への配送便がままならない状況です。加えて燃料事情の悪化でトラックが足止めになっているケースもあります。そのような中、取次は、各書店への雑誌配送を「毎日から「隔日」にしました。つまり、約半数の雑誌の発売が遅延してしまうということです。北海道や九州など遠隔地は鉄道コンテナやフェリーを使用するのですが、こちらは災害緊急搬送品が優先で積載漏れが出てしまうこともあり、銘柄によっては遅延してしまうそうです。
このような事情で、「発売日に雑誌が並ばない」ケースが多くなるとは思いますが、 一過性のもので、発売中止という事態をは起きないだろうと見ています。というのも、通常ですと事故(搬入遅れ)を生じさせた場合、取次に「発売を1週間遅らせる措置」など厳しいペナルティを科せられるのですが(もちろん罰金もタンマリ請求されます)、今回の非常事態に限っては現状に即した緩和的な措置で少々の遅れでも対応しているからです。
雑誌によってはいつもと厚さが違っていたりページ数が少なくなっていたりするかもしれません。でもそれは出版社の「苦肉の策」での結果です。少々見栄えは悪くなってしまうかもしれませんが、しっかりとした内容の商品を届けようとする意志は変わらないと思います。ぜひ、温かく見守っていただければと思います。
(テングダンディ)