【自動車用語辞典:衝突安全「ヒルスタートアシスト」】一時的にブレーキを保持して坂道の発進を補助する機能

■坂道発進が格段に楽になる

●横滑り防止装置の油圧ブレーキ制御を利用する

坂道で止まると、発進時にズルズル後退するのではないか、前の車が下がってくるではないかと心配になったことはありませんか。「ヒルスタートアシスト」は、一時的にブレーキを保持して坂道のスムーズな発進を補助する機能です。

ヒルスタートアシストシステムの機能と効果について、解説していきます。

●ヒルスタートアシストとは

MT車の坂道発進について、教習所では以下の要領で行うように指導しています。

・ブレーキペダルを踏み、サイドブレーキを引いた状態でローギヤに入れる。
・ブレーキペダルからアクセルペダルへ踏み換え、エンジン回転を少し上げて半クラッチを維持する。
・サイドブレーキを徐々に戻し、クラッチペダルもゆっくり戻して発進させる。

MT車で運転に自信がないドライバーにとっては、サイドブレーキをリリースする手加減や素早いクラッチミートが煩わしい操作であり、結構難しいです。

ヒルスタートアシストは、ブレーキペダルからアクセルペダルに踏み換えるときに、1~2秒間ブレーキ機能を保持します。これにより、サイドブレーキを操作する手間が省けて、クラッチミートだけに集中できます。

AT車の場合、急な坂道でなければヒルスタートアシストによって、サイドブレーキやフットパーキングブレーキの操作なしで容易に坂道発進ができます。

●ヒルスタートアシストの仕組み

ブレーキ機能の保持は、一般的にはESC(Electronic Stability Control:横滑り防止システム)の油圧ブレーキ制御を利用します。日本では、すでにすべてのクルマにESCの装着が義務付けられています。ESCには加速度センサーも組み込まれていますので、油圧制御の変更によって比較的容易にヒルスタートアシスト機能を追加できます。

各社が採用しているシステムには多少の違いはありますが、大まかには次のような流れで制御します。

・車輪速センサーで車両の停止を検知し、加速度センサーで坂道の傾きを算出
・アクセルペダルへの踏み換えのため、ペダルブレーキを解除するとブレーキ圧を保持(ブレーキ機能の開始)
・その後1~2秒程度の所定時間が経過するか、あるいはアクセルペダルの操作が始まると、ブレ ーキ圧を開放(ブレーキ機能の解除)

●ESC

ESCは、走行中の横滑りを防止して走行状態を安定化させるシステムです。

各ホイールの回転差や加速度センサーの情報などからクルマの横滑りを検出したら、エンジン出力と各タイヤのブレーキを制御してクルマの走行安定性を向上させます。

●ヒルスタートアシストは必要か

現在、数少ないMT車を選んで乗ってる人は、クルマの操作や運転に自信がある人です。MT愛好者にとっては、坂道発進も難なくでき、むしろ勝手に制御が介入することに違和感や煩わしさを感じるかもしれません。

一方、AT車にはそれほど強い必要性があるとは思いませんが、実際には多くのAT車に採用されています。日本ではAT車の販売比率が98~99%と圧倒的に高く、操作性が容易なクルマが好まれるという実情に合わせた対応と言えます。

●ダウンヒルアシスト

急な下り坂や雪道では、タイヤがロックして滑らないように自動的にブレーキを制御して、一定の低速度を保つ「ダウンヒルアシスト」と呼ばれるシステムもあります。


ヒルスタートアシストは、坂道発進の操作に慣れて、難なく対応できるドライバーにとっては、それほど有難い機能ではないかもしれません。一方で、操作に不慣れなドライバーや高齢ドライバーにとっては、操作性だけでなく安全性の向上にもつながる有効な機能です。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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