【自動車用語辞典:低燃費技術「可変動弁機構」】バルブの開閉時期やリフト量を可変させて燃費や排出ガス浄化を促進する技術

■可変圧縮比、HCCIなどの先進技術に不可欠

●3つのタイプに大別できる

可変動弁機構は、出力向上だけでなく燃費向上や排出ガス低減のために、多くのエンジンに標準的に採用されています。

各自動車メーカーが独自に開発している可変動弁機構の仕組みや効果について、解説していきます。

●可変動弁機構の種類

初期の可変動弁機構は、回転速度に応じて吸・排気弁の開閉時期を変更し、全域で高出力を確保するために開発されました。

弁開閉時期の可変機構だけでなく、弁リフト量の可変機構も開発され、最近では出力向上だけでなく、燃費向上や排出ガス低減のためにも活用されています。

可変機構はメーカーによって異なり、それぞれ独自の名称が付けられていますが、大きくは3つに分類できます。

・カム位相型 (トヨタ「VVT-i」、BMW「VANOS」など)

典型的な手法は、カムシャフト先端のスプロケット部に位相角変更用の油圧機構を備えたタイプです。電動化によって過渡時にも応答良く作動するようになりましたが、開弁時期とともに閉弁時期も変わるので使い方が限定されます。

・カム切り替え型 (ホンダ「VTEC」、ポルシェ「VarioCam Plus」、アウディ「AVS」など)

カムプロファイルの異なる複数のカムシャフトを切り替える機構です。
カム位相型と組み合わせることによって、最適な弁開閉時期と開弁期間、弁リフト量を制御できます。

・油圧駆動型 (FCA/アルファロメオ「MultiAir」)

カム山で駆動させるのではなく、カム山がポンプを押して発生させた油圧で吸気弁を駆動します。弁駆動の自由度が高く、理想的なプロファイルを実現できますが、油圧系が複雑でコスト高であるため普及には至っていません。

その他、進化型の弁開閉時期&弁リフト量の連続可変機構として、トヨタ「バルブマチック」、日産「VVEL」、BMW「Valvetronic」、三菱「SOHC型MIVEC」などがあります。出力制御だけでなく、弁リフト量によって吸気量を制御できるので、ポンプ損失の低減など活用の範囲が広がります。

●可変動弁機構の狙いとメリット

低速の全負荷条件では、開弁期間を短く(閉弁を早く)して弁リフト量を小さ目にして低速トルクを向上させます。一方、高速域では開弁期間を長く(閉弁を遅く)、弁リフト量を大きくして最高出力を向上できます。

同時に、高速域では吸・排気弁のオーバーラップ期間を長くして、排出ガスの抜けを改善することによって出力向上を図ります。

燃費を重視する部分負荷では、吸気弁を遅閉じすることによってポンプ損失を低減させ、燃費を向上させます。また吸・排気弁のオーバーラップ期間を長くして、燃焼ガスをシリンダー内に残留させる内部EGRによってポンプ損失を減らし、燃費と排出ガス性能を改善できます。

エンジン冷態時は、触媒温度が低いため、排出ガスの浄化効率が低下します。吸・排気弁オーバーラップ期間や排気弁閉時期の調整によって、触媒温度の暖気を促進します。

最近の可変機構の高速かつ高精度制御の実現によって、多様なメリットが生み出され、可変動弁機構は、多くのエンジンで標準的に採用されています。

●オーバーラップ期間とは

空気の流れには慣性があるので、排気弁は上死点後に閉じ、吸気弁は上死点前に開くようにします。この上死点前後で、排気弁と吸気弁の両方が少しだけ開いている期間をオーバーラップ期間と呼びます。

オーバーラップ期間が短いと、燃焼室に残留する燃焼ガス(残留ガス)が減り、オーバーラップ期間が長いと、残留ガスが増えます。出力向上や燃費向上、排出ガス改善など目的によって、オーバーラップ期間を可変動弁系機構によって適正に制御します。


可変動弁機構は、吸・排気の効率やシリンダー内の温度・圧力、内部EGR量など、出力や燃費、排出ガス性能を決定する重要なパラメーターを制御できる機構です。

直噴ターボや可変圧縮比、HCCIなどの先進技術には、必要不可欠の技術です。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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