自動運転にも欠かせない電動パワーステアリングの進化に取り組むジェイテクト【人とクルマのテクノロジー展 2018】

クルマの運転に欠かせないステアリングシステム。この分野で近年注目を集めているジェイテクトの取り組みを紹介しよう。

ステアリングのアシスト方式には電動と油圧がある。車重が3tを超えるような大きな車両 (SUVやピックアップトラック)は油圧式が一般的だ。電動パワーステアリング(EPS)が発生させる軸力では限界がある。12Vの電源では電力が足りず、充分な軸力を発生させることができないためだ。

しかし燃費向上や排ガス規制への対応の観点で、大きな車両をEPS化するニーズが高まっている。また、自動運転化に対応させるためにもEPS は必須だ。

そこでジェイテクトでは、大きな力が必要な低速の据え切り時だけ一時的に昇圧する「電動パワーステアリング用補助電源システム」の開発に取り組んでいる。昇圧に用いるデバイス はリチウムイオンキャパシタだ。

上の写真は高出力EPSユニット。デュアルピニオンではカバーできない大型車はラックパラレルタイプのEPSに置き換わる流れ。大型車向けにはラック同軸タイプもあるが、モーターがラックと同軸にあるためエンジンと干渉しがちなのが難。万が一の衝突の際、エンジンを車室に侵入させずに下に落としたい。その場合、レイアウト自由度の高いラックパラレルが好まれる傾向だという。

下の写真はバックアップ電源ユニット。車載バッテリーの電力不足からEPS化が困難だった大型SUVやピックアップトラックをEPS 化する狙いで開発。ラックパラレル式EPSをベースに、リチウムイオンキャパシタを用いた補助電源システムを組み込んでいる。高耐熱化のニーズは強く、農建機、鉄道などからも引き合 いがあるという。高耐熱リチウムイオン電池の開発にも取り組んでいる。

12V電源とEPSの間に充放電コントローラーとキャパシタを直列に搭載するレイアウト。EPSの負荷が低いときにキャパシタに電力を蓄えておき、EPSが大きな電力を要求したときは、12Vの電源にキャパシタの6Vを加え18Vの電圧供給を行なう。この結果、12V時に720Wだった出力は1080Wになる。

「720Wの出力だと、仮にタイヤを動かす力が10kN必要な場合に約400deg/secの操舵角度しか得られません。ところが、補助電源で昇圧して1080Wまで出力を上げると、800deg/sec近くの 操舵角度を得ることができます。1000W程度あれ ば大型車でもEPSを適用できると考えています」

エンジニア氏はそう説明する。またなんらかの 理由で車両電源がシャットダウンすると、EPSが機能しなくなって最悪の場合はハンドル操作が効かなくなる。バックアップ電源としてシステムが有効であれば、アシストは継続される。開発中のシステムは操舵保持であれば3分程度は問題 なく走行でき、緊急時の車両停止まで走行の安全性を保つことができると考えられている。

当初、ジェイテクトは既存のキャパシタメーカーに開発を依頼したが、耐熱性の問題をクリアできず冷却システムが欠かせないことが判明した。冷却システムは大きく重く、搭載性が悪いし、コストがかかる。システムをコンパクトにするには耐熱性の高いリチウムイオンキャパシタでなければならないとの結論に至り、自社で開発する決 断を下した。かつて、リチウムイオン電池の製造設備を基礎研究開発した経験があったことが役立った。2019年4月に少量での量産を開始し、ま ずは年間50万セルを供給できるラインを整備する予定だ。

この記事の著者

角田伸幸 近影

角田伸幸

1963年、群馬県のプロレタリアートの家庭に生まれる(笑)。富士重工の新米工員だった父親がスバル360の開発に立ち会っためぐり合わせか、その息子も昭和期によくいた「走っている車の名前が全部言える子供」として育つ。
上京して社会人になるも車以上に情熱を注げる対象が見つけられず、自動車メディアを転々。「ベストカー」「XaCAR」で副編集長を務めたのち、ポリフォニー・デジタルにてPlayStation用ソフトウェア「グランツーリスモ」シリーズのテキストライティングに携わる。すでに老境に至るも新しモノ好きで、CASEやパワートレインの行方に興味津々。日本ディープラーニング協会ジェネラリスト検定取得。大好物は豚ホルモン(ガツとカシラ)。
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