8月1日新制度導入で「格安」高速ツアーバスが消滅する !

2012年4月29日に関越自動車道の藤岡ジャンクション付近で運転手の居眠りにより、高速ツアーバスが約90km/hの速度で金属製の防音壁に正面から激突、乗客7人が死亡、乗客乗員39人が重軽傷を負うという痛ましい事故となった為、当時のニュースの記憶が残っている方も多い筈。 

関越道事故形態 (出展 Wikipedia)

こうした高速ツアーバスの利用者は政府による2000年の規制緩和により新規参入事業者が増え続け、「格安ツアー」ブームに乗って2010年には約600万人が利用するまでに市場が拡大。 

やがて過当競争のあげく、ツアーの販売力で力を持つ旅行会社がバス事業者へコスト削減を強要するなどで過密運行スケジュールとなり、安全面の対策が疎かになって行ったと言います。 

この事故を起こしたバス事業者もゴールデンウィーク中の増発便として急遽受注したようで、バス運転の経験が2年程度と浅い運転手を日雇いで起用、規定である運行指示書も作成していなかったとか。 

国土交通省はこの事故発生を踏まえて同年7月に「新高速乗合バス制度」を制定。

旅行業者が「旅行業法」の下で運行していた「高速ツアーバス」は廃止され、路線バス扱いの「高速乗合バス」に一本化。本年8月1日より安全管理基準の厳しい「道路運送法」の下で運行されることになります。  

新高速乗合バス制度 (出展 国土交通省)

これに伴い、「貸切バス事業者」は政府から許可を受けた「乗合バス事業者」から運行委託を受けるか、もしくは自らが新たに「乗合旅客運送」の許可を受けることでのみ高速バス事業への参入が可能に。 

新高速乗合バス制度 (出展 運送事業サポートセンター)

新制度では利用者の安全確保を目的に、従来「旅行業者」と「貸切バス事業者」間で曖昧だった安全責任の所在を明確化すべく、政府から許可を受けた「乗合バス事業者」の責任の元で安全管理を行なう仕組みに改められたという訳です。 

では新制度になると、利用者にとって何が変わって来るのでしょうか? 

・安全性が向上
「道路運送法」適用により各種安全規制を導入 

・バス停の設置で乗り場が明確に
従来の高速ツアーバスのように「○○前に集合」では無く、バス停で乗車 

・事前料金支払いが不要
新制度では既存の路線バスと同様に、空席がある場合にはバス会社に当日直接運賃を支払えば乗車可能に(事業者の運用による) 

・激安ツアーが消滅、安全確保で利用料金がアップ
「道路運送法」が適用となる為、運転手数や労働時間規制、厳しい安全管理基準への対応などのコスト増や運賃適正化の規制により、「格安運賃」での運行が不可能に 

・高速バスの路線数や便数が減少
「高速ツアーバス」事業から半数以上のバス事業者が撤退する見込みで、新制度への移行後は一旦全体のボリュームが減少する 

・定時運行となり発着時間厳守
「路線バス」扱いとなるのでツアーバスのような発着時間の柔軟性は無くなる 

以上のように、何よりも優先される「利用者の安全確保」と引き換えに、サービス面はいわゆる「路線バス」並になるものと思われます。 

独立行政法人国民生活センターの調査によると、現状の「高速乗合バス」でも不具合や苦情はやはり有るようです。例えば…

①運行に関する重要情報の周知が行き届いていない
ダイヤ改正や事前に判明しているルート上の工事、イベント等に伴う時刻の変更、停留所の位置の変更に対応しきれていない 

②販売方法の多様化に対し、キャンセルや変更への対応が追い付いていない
コンビニ設置の情報端末機や、インターネットによる予約・決済など購入方法の多様化が図られ便利になっているものの、予約変更、キャンセル、払戻し等は、営業拠点の窓口や、電話でのみ取り扱うケースも 

③乗車券紛失に伴うトラブルが多い
乗車券を紛失した場合、窓口やバス車内で同じ運賃をもう一度支払う必要が有るが、利用者には払い戻しが出来ると思われているようで、苦情になるケースが多い

といった具合なので、新制度移行後も「時間に余裕を持って乗車場所に向かう」、「荷物などの持込みの条件をしっかり確認する」といった事も含めて十分注意が必要と思われます。 

■国土交通省 新高速乗合バスについて(PDF資料)
 http://www.mlit.go.jp/common/000219455.pdf 

■独立行政法人国民生活センター調査(PDF資料)
 http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20110721_4.pdf

 (Avanti Yasunori) 

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この記事の著者

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Avanti Yasunori

大手自動車会社で人生長きに渡って自動車開発に携わった後、2011年5月から「clicccar」で新車に関する話題や速報を中心に執筆をスタート、現在に至る。幼少の頃から根っからの車好きで、免許取得後10台以上の車を乗り継ぐが、中でもソレックスキャブ搭載のヤマハ製2T‐Gエンジンを積むTA22型「セリカ 1600GTV」は、色々と手を入れていたこともあり、思い出深い一台となっている。
趣味は楽器演奏で、エレキギターやアンプ、エフェクター等の収集癖を持つ。
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