車の「燃費」とは? 意外と知らない種類や計測方法を解説【自動車用語辞典】

車を走らせるためには、動力源のエンジンを動かすエネルギーが必要です。そのエネルギー源が内燃機関では燃料であり、電気自動車ではモーターを動かす電力です。これまで大きく車に関わってきたガソリン、ディーゼルなどの燃料が、一定の走行距離においてどのくらいの量が必要なのか、それを表す指標が「燃費」です。車生活でよく聞かれる大切な数値である燃費ですが、JC08モード、WLTCモード、実燃費など、数値の出し方によりいろいろと種類がありますので、知っておきたいその内実を解説します。

■車の燃費とは

燃費の種類

車を買うときに、何を判断材料にして決めますか? デザイン、価格、パワーなど、いろいろありますが、燃料代、維持費に直接関わる「燃費」を重視する人は、多いと思います。

しかし「燃費」といっても、いろいろな表示法があります。代表的な燃費表示法を取り上げ、それぞれの燃費が何を意味し、どのように計測されているかを解説していきます。

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C/Dモード試験

燃費の表現法

燃費とは、燃料消費率の略で、一般的には次のように表示されます。

・車が単位燃料量あたりに走行できる距離で表示、単位は「km/L」。日本やアメリカ、北欧などが採用(ただし、アメリカの単位は「mile/gallon」)
・車が一定距離を走行するために必要な燃料量で表示、単位は「L/100km」。欧州や中国などが採用

2つの単位「km/L」と「L/100km」は数学的には逆数の関係にあり表示の違いだけですが、「L/100km」の方が、分かりやすく現実に即した表示と言えます。その根拠となる理由を、2つ紹介します。

1.低燃費(燃費が下がる)という表現が違和感なく受け入れられるのは、「L/100km」の方です。燃費が良くなると、「km/L」の数値は増え、一方「L/100km」の数値は減るからです。
2.ユーザーにとって重要なのは、燃費の値でなく、燃料代です。燃費が良くなっても「km/L」では何km長く走れるかが分かるだけです。一方、「L/100km」では燃料が何L減らせる、燃料代がどれくらい節約できるかが直感的に分かりやすいです。

日本も「L/100km」単位を採用すべきと思いますが、どうでしょうか。

実燃費

実燃費とは、一般路の実走行での燃費のことです。実燃費は、ドライバーの運転の仕方、走行パターン、渋滞などの交通事情、気温などの環境条件によって大きく変化します。あるユーザーのその時どきの条件での燃費を示すものです。

モード燃費

車の燃費を横並びで評価するために、シャシーダイナモ(C/D)メーターのローラー上で実走行を模擬した運転パターンで走行し、計測されるのが「モード燃費」です。メーカーが国交省から型式認証を受け承認される燃費で、「カタログ燃費」とも呼ばれます。

2018年9月まで適用されていたのが「JC08試験モード」、2018年10月からは世界基準の新しい試験法「WLTC(Worldwide-harmonized Light vehicles Test Cycle)モード」に変更されました。JC08とWLTCの違いについては後述にて紹介しましょう。

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燃費率マップ

エンジンの単体燃費

車の燃費の良し悪しは、エンジンの単体燃費で決まるといっても過言ではありません。エンジン単体燃費は、試験室で動力計と燃費計を使って計測します。単体燃費は、通常単位仕事(単位出力×時間)あたりに消費する燃料重量、燃料消費率「g/PS・h」で表します。

■実燃費とは

「満タン法」で計測した燃費の注意点

一般路での実走行の燃費を、一般的には「実燃費」と呼びます。

実燃費は、その車の燃費性能・普遍的な燃費を示すものではなく、あるユーザーのその時々の条件の燃費を示すもので、再現性のないその時だけの燃費です。実燃費の変動要因にはどのようなものがあり、どのような影響を与えるのか、解説していきます。

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燃費は気温や加速の仕方、エアコンの使用状況などによって変化する

実燃費

実燃費は、実際に一般路を走行した時の燃費ですが、メーカーが公表しているわけでもなく、特定の車の燃費性能を示すものでもありません。

実燃費は、ドライバーや走る道路が変われば変わり、渋滞の状況や気温、湿度によっても左右されます。再現性のあるものでなく、走れば走るほど、異なる燃費値が出てきます。

したがって、「そのときの、その環境下での、あるドライバーの運転操作の結果に過ぎない」と言えます。

実燃費が変化する条件

・走行条件
一定車速で走行する場合、車速60~70km/hで最も燃費が良くなります。登坂走行、アクセルやブレーキ操作を繰り返す加減速、渋滞時には燃費は悪化します。

・環境の影響
気温と燃費には相関があり、気温1度の上昇で燃費が0.5~1.0%良くなるというデータがあります。気温の上昇による暖気時間の短縮や、走行抵抗の減少が寄与しています。しかし、夏場のように気温が上がりエアコンを使用し始めると、燃費は一気に悪化してしまいます。また、雨天時には、タイヤ表面温度の低下や転がり抵抗が増加するため、燃費は悪化します。

・エアコンの影響
エアコンのコンプレッサーはエンジンで動かすので、エアコンを使えば条件によっては15%程度燃費が悪化します。

・その他
車の重量(乗員数や荷物の積載量)、タイヤの種類や空気圧と劣化状況などにも、燃費は影響されます。

実燃費を良くするには、上記要因の影響を考慮して、車を使用することがポイントです。

実燃費の計測法

一般的に採用されている実燃費の計測法は「満タン法」です。

走行前後に燃料を満タンにして燃料消費量を求めて、その間の走行距離を燃料消費量で割る方法で、簡単に燃費を求めることができます。毎回正確に同じ場所で同じように給油すれば、かなりの精度で実燃費を確認できます。

また、最近多くの車では、ECU(エンジン制御コンピューター)の噴射信号を用いて実燃費を算出する車載燃費計を装備しています。算出した瞬時実燃費や平均実燃費は、インパネメーターに表示されます。

どのような運転をすれば、燃費が良いか、悪いかを確認できます。エコ運転したいなら、非常に参考になりますので活用してみてください。

車載燃費計の平均実燃費[km/L]は、エンジンECUの燃料噴射信号(燃料を噴射している時間)から求めた噴射量と、車速センサーから求めた走行距離を使って算出されます。瞬時実燃費[km/L]は、短期間(2~3秒)の噴射量と走行距離から算出し、計測結果を順次更新しながらメーターに表示します。

実燃費は同一車種であっても、ドライバーの数だけ、走った回数だけ存在します。車の燃費性能を横通しで評価し、比較することはできません。ただし、日常的に実燃費を意識すれば、車の調子やエコ運転の参考にできます。

燃費性能を同一条件で評価するためには、次に説明するモード燃費があります。

■モード燃費とは

実走行せずメーター上で測定する模擬運転

路上走行ではなく、シャシーダイナモ(C/D)メーターのローラー上で実走行を模擬した運転パターンで走行して、燃費と排出ガスを測定する試験を「モード試験」と呼びます。

モード試験は、より実走行に近づけるように日本の交通事情の変化に応じて改良され、2018年9月までは「JC08モード」試験、2018年10月からは「WLTC」と呼ばれるモード試験法が導入されています。今回はJC08モード試験を例に、モード燃費について解説していきます。

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C/Dモード試験とJC08モード

モード試験

路上走行で燃費や排出ガスを精度良く計測するのは難しく、また、結果は運転条件によって大きく変わります。試験車をシャシーダイナモのローラー上で、一般的な走行を模擬した走行パターンで走行させ、燃費と排出ガスを評価するのが「モード試験」です。一連の試験方法や条件設定法は、法規の中で細かく規定されています。

モード燃費は、メーカーが国交省から型式認証を受ける際に承認される燃費です。カタログに表示することが義務付けられているので「カタログ燃費」とも呼ばれます。その試験、モード試験は1966年の10モードに始まり、10-15モード、JC08モード、現行のWLTCとなり、より実際の走行を反映させるように改良されてきました。

例えるなら、人がランニングマシンの上をゆっくり歩き始め、途中でさまざまな速度でジョギングしながら、最終的に止まる、このような一連の決められた運動パターンを終えて、消費カロリーや脈拍数などを測定する、といった同じ土俵で横並び評価するための試験法です。

モード試験法と燃費計測法

モード試験では、常に同一条件で試験されることが大前提です。

まず、事前に試験車の走行抵抗を計測し、シャシーダイナモメーターに実走行相当の抵抗、負荷をセットします。このとき、試験室の温度と湿度や試験車の暖気具合、車速に応じた扇風機による送風など、環境条件を常に同じにして、実走行相当の条件を作り出します。

2016年に自動車メーカーの燃費不正が発覚しました。それぞれに異なった不正状況での測定でした。三菱自動車の場合は、試験車の走行抵抗結果を改ざんし、シャシーダイナモの負荷設定を実際よりも小さく設定して、燃費を良くみせた不正です。スズキの場合は、走行抵抗を規定された方法と違う独自の方法で計測したという不正です。

カーボンバランス法

燃費の計測は、排ガス中の炭素成分変化を利用した「カーボンバランス法」で算出します。エンジンに供給される燃料と排ガスに含まれる炭素(C)の量は同じであるという原理にもとづいた算出法です。排ガス中の炭素化合物CO、CO2、HCの重量を計測し、これらに含まれる炭素の重量から、消費した燃料量を算出します。

排ガス中のCO2が多いということは燃料消費量が多い、すなわち燃費が悪いということを意味します。そのため、地球温暖化を抑えるために温室効果ガス(CO2)を減らすことが必要であり、車の燃費を良くすることが求められているということに繋がります。

WLTCモードの新モード試験法へ変更

2018年10月から燃費・排ガス試験法は、それまでのJC08モードから国際的に統一された試験基準「WLTC(Worldwide-harmonized Light vehicle Test Cycle)」に準じた方式に変更されました。

WLTCモードはJC08モードに比べて、「最高車速が高い」「加減速が多い」「走行時間や距離が長い」といった特徴があります。

一般に、モード燃費は実燃費よりも良い値を示します。実燃費がメーカーが公表するモード燃費に近づくには、熟練したドライバーが平坦な道路をエアコンやライトをつけず、渋滞なくスムーズに走行するなど、一定の条件が必要になります。

とはいえ、モード燃費は同一条件での安定した正確な値ですので、その車の相対的な燃費ポテンシャルを示していると考えればよいと思います。

■新モードWLTCとは

WLTCは世界基準

2018年10月から、新型乗用車の燃費・排ガスの試験方法が変更されました。これまでの「JC08モード試験」に代わり、国際的に統一された試験法「WLTC(Worldwide-harmonized Light vehicle Test Cycle)」が導入されました。

新たに導入されたWLTCモードとは、どのよう試験法で、どのような目的で導入されたのか、解説していきます。

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JC08モードとWLTP

旧JC08モード

モード試験では、シャシーダイナモメーターのローラー上で、実走行を模擬した走行パターンで走行させ、燃費と排出ガスを計測します。

これまでのJC08モード試験は、日本の一般的な走行実態を模擬した走行パターンでした。それ以前の10・15モードに比べると、最高車速、平均車速とも高く、またコールド(エンジンの冷えた状態)スタートからの計測を付加するなど、できるだけ最近の日本の道路事情を反映するようにしていました。

JC08モードからWLTCモードに変更された理由

WLTCモードに変更された最大の理由は、「試験法や基準値の世界標準化」の動きです。

これまでは、燃費・排出ガスの測定法や基準値は、国や地域によって異なっていました。特定の国や地域で車を発売する場合、自動車メーカーはそれぞれ固有の試験法で決められた基準値に適合する必要があります。これに対応するには、多くの労力と時間を要すため、開発コストの上昇にもつながります。結果として車の価格上昇になり、ユーザーにとっても不利益です。

世界標準の試験法と基準値があれば、多くの国や地域の燃費・排ガスの測定が一度の試験で済みます。これにより、仕様変更が不要となり部品の共通化が進みます。

このように、世界標準の試験法と基準値を制定することには、大きなメリットがあります。

世界基準のWLTCモード試験

燃費・排出ガス試験法の世界基準「WLTC」は、国連欧州委員会の傘下にあるWP29(自動車基準調和フォーラム)で制定されました。車の燃費・排ガスを適正に評価する国際的に統一された試験法です。EUの新型乗用車では2017年9月から導入されており、日本は1年遅れで追従しました。

WLTCモード試験は、現行JC08と比べて「最高車速が高い」「加減速が多い」「走行時間や距離が長い」といった特徴があります。その他にも設定法変更による試験車重量の増加、コールド(冷態)運転割合の増加、アイドリング運転頻度の増加などの違いがあります。

走行パターンは、「低速(市街地走行)」「中速(郊外走行)」「高速(高速道路走行)」の3つのフェーズに分けられ、全体の平均燃費値とともに各フェーズごとの燃費値も表示することが義務づけられています。

これらの試験条件の違いによって、WLTCモード燃費の値はJC08モード試験に比べると若干悪化する傾向にあります。

なお本来WLTCモードは、前述の3つのモードに「超高速」フェーズを加えた4つのフェーズで構成されていますが、日本においては走行実態を踏まえて超高速フェーズを除外した3つのフェーズで構成しています。

WLTC導入の最大のメリットは、車の基準統一の実現により、メーカーでは国際的な部品の共通化ができ、それによってコストが低減できることです。その結果、将来に向けた環境技術の開発への資本投資が可能となり、ユーザーにとっても環境性能に優れた車を、より安価に入手できることにつながります。

■エンジンの単体燃費とは

一般には聞きなれないエンジン単体燃費

エンジンは、車の燃費を決定するキーコンポーネントです。「エンジンの単体燃費」を向上させることが、車の燃費向上に直接つながります。ここからはエンジンの単体燃費の計測法や改良手法について、解説していきます。

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ダイナモメーターと燃費率マップ

エンジン単体燃費

車を一定条件で走行させるとき、エンジンに要求される出力は一定です。このときのエンジンの燃料燃費率は、単位仕事(単位出力×時間)あたりに消費する燃料重量で表し、単位は「g/PS・h(またはg/kW・h)」となります。この数値が小さいほど燃費が良いことを示します。

例えば、あるエンジンが回転速度3000rpm(回転/分)で出力が40PS、燃費率が250g/PS・hの場合、1時間の燃料消費重量は10000g(10kg)です。これはガソリン(比重0.75を仮定)なら、1時間あたり13.3Lの消費量に相当します。

エンジン単体燃費の計測方法

エンジンの単体燃費の試験は、エンジン試験室のダイナモメーター(動力計)を使って行われます。ダイナモメーターではエンジンのトルク・出力を計測し、同時にそのときの燃費を流量計によって計測します。

燃費率を計測する試験では、エンジンにかける負荷を「無負荷(アイドル状態)」から「部分負荷(スロットルが部分開状態)」「全負荷(スロットルが全開状態)」まで設定して、エンジン回転速度500rpmごとに燃費率を計測します。

計測した燃費率のすべての結果を、横軸にエンジン回転速度、縦軸にエンジン負荷としたグラフ上にプロットし、燃費率を等高線で示した図を「燃費率マップ」と呼びます。もっとも燃費率が良い(小さい)領域は「燃費の目玉」と呼ばれ、通常はエンジン回転速度2000~3000rpmで、全開負荷に近い高負荷の運転領域が目玉です。

なお、最近はシミュレーション技術が進んでいるので、エンジンの単体燃費から、そのエンジンを搭載した車の燃費を精度良く推定できます。また、車両運転条件を完全にシミュレートできる高機能なダイナモメーターも開発され、台上試験で実車相当の動力試験や燃費試験、さらに実車のための適合試験もできるようになりました。

エンジンの燃費を向上するには

エンジンの燃費を向上するためには、より少ない燃料で多くの仕事をさせる、すなわち熱効率を向上させる必要があります。エンジンの燃費率を向上させる代表的な手法を挙げてみます。

・高圧縮比化
熱効率は、圧縮比を上げるほど向上します。

・急速燃焼
燃焼を速めると、サイクル効率が向上して熱効率が向上します。

・希薄燃焼(リーンバーン)や大量EGR導入
熱効率を下げるポンピングロス(スロットルを絞ることで発生する損失)を低減できます。

・フリクション(機械損失)の低減
摺動抵抗や駆動ロスの低減や軽量化によって、エンジンにとってマイナスの仕事を減らします。

すでに多くの低燃費技術が採用されていますが、注目技術は2019年に「インフィニティQX50」に搭載された日産の「VCターボ(可変圧縮比ターボ)エンジン」と、同じく2019年に発売されたマツダ「MAZDA3」に搭載された「SKYACTIV-XのSPCCI(火花点火制御圧縮着火)」エンジンです。SPCCI燃焼は、まだHCCI(予混合圧縮自着火)エンジンとは言えませんが、HCCIエンジンに一歩近づいたエンジンという位置付けです。

両エンジンとも、多くの技術者が長期にわたり、実用化を目指して取り組んできた「画期的なエンジン」です。

車があらゆる環境条件下の定常および過渡状態において、パワフルかつ燃費良く走行できるように、エンジンは設計され開発されています。車の燃費を向上させるには、まずは低燃費技術を駆使してエンジンの単体燃費を良くすることが最優先なのです。

(Mr.ソラン)

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