フェルディナント・ポルシェとは?スポーツカーメーカー・ポルシェの創業者【自動車用語辞典:クルマの偉人編】

■「20世紀最高の自動車設計者」と評され、航空機用エンジンや戦車まで手掛けた多才な技術者

●スポーツカーだけでなくヒトラーに依頼されてフォルクスワーゲン・ビートルも開発

ポルシェと言えば、高級スポーツカーを連想しますが、創業者のフェルディナント・ポルシェはスポーツカーだけでなく大衆車や電気自動車など、さらには航空機用エンジン、戦車まで手掛けた歴史に残る多才な技術者です。

「20世紀最高の自動車設計者」と呼ばれるフェルディナント・ポルシェについて、解説していきます。

フェルディナント・ポルシェ
名車356とフェルディナント・ポルシェ(右)。隣は息子のフェリー・ポルシェ、左端は356のボディデザインを手がけたアーウィン・コメンダ(写真:ポルシェAG)

●フェルディナント・ポルシェのヒストリー

・1875年:オーストリアのブリキ職人の次男として誕生

・1894年:ウィーン工科大学の聴講生となり、同時に電気機器デラベッカー社に就職

才能を認められ大学をやめて仕事に専念、この頃からモーターの特許を申請するなど自動車に興味を持ち始めた。

・1898年:電気自動車を開発していたローナー社に引き抜かれて移籍

車輪のハブにモーターを装着した電気自動車「ローナーポルシェ」を開発して、1900年の万博に出展

・1906年:アウストロ・ダイムラー(後のダイムラー・ベンツ)に技術部長として移籍

スポーツカーから飛行機のエンジンまで多くの設計を担当

・1923年:ダイムラー・モトーレンの技術部長兼取締役に就任して、数々のレーシングカーを開発

・1928年:大衆車の開発で経営陣と対立して、ダイムラー・ベンツを退職

・1931年:シュトゥッガルトで自動車の設計コンサルタント会社ポルシェを設立し、国内外から多くの委託開発を請け負う。

・1933年:ヒトラーから国民車(ドイツ語でフォルクスワーゲン)の設計を依頼され、1938年に量産化

第二次世界大戦中は、軍用車両や戦車などを開発

・1950年:75歳で死去

●功績

1898年電気自動車を開発していたローナー社に移籍して、車輪のハブにモーターを装着した電気自動車「ローナーポルシェ」を開発しました。

これは、現在次世代EVと位置付けられているインホイールモーターの先駆けであり、100年以上も前にこのシステムを考案していたポルシェの才能には驚かされます。

1906年アウストラ・ダイムラーに移籍後は、スポーツカーの設計で名声を得ました。さらに、飛行機用エンジンの設計も担当し、ダイムラーの飛行機用エンジンの優れた性能は世界中で評判になりました。この技術は、後のV型12気筒エンジンなど高性能の自動車用エンジンにも生かされています。

1923年にダイムラー・モトーレンの技術部長兼取締役に就任し、数々のレーシングカーを開発しました。スーパーチャージャー付4気筒OHCエンジンを搭載したレーシングカーは、タルガ・フローリオで優勝。成果は学界からも高く評価され、シュトゥッガルト工科大学から名誉工学博士の称号を受けました。

1933年コンサルタント会社を始めたポルシェは、ヒトラーから国民車(ドイツ語でフォルクスワーゲン)の設計を依頼されました。1938年には、空冷リアエンジンを搭載した流線型ボディの国民車の量産化に成功。これが後のビートルの愛称で世界中で大ヒットした「フォルクスワーゲンタイプ1」です。この他にもヒトラーの後援を受けて、第二次世界大戦中は軍用車両や戦車なども開発しました。

●エピソード

・ポルシェは敬意をこめて「ポルシェ博士」と呼ばれますが、自身は叩き上げの技術者で大学を卒業していません。数々の功績を認められて、ウィーン工科大学とシュトゥッガルト工科大学から名誉博士号を授与されていたので、博士の敬称で呼ばれたのです。

・第二次世界大戦中にヒトラーの命を受けて軍事的な貢献をしたことから、ドイツ敗戦後の1945年に戦争犯罪人として一時逮捕収監。しかし、数週間後には政治とは全くかかわりがないということで釈放されました。


語り尽くせないほどの輝かし功績を残したポルシェ博士ですが、その後引き継いだ息子や孫達ポルシェ一族も多くの実績と名車を生み出しました。

高級スポーツカーとしてのポルシェだけでなく、もとを辿ればクルマの基本技術にポルシェ博士の多くの遺産が反映されています。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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