■フラットなダッシュボードは自由の象徴!? ホンダはホンダらしくあってほしい
緊急事態宣言が出る前に乗ったクルマのなかでもっとも印象に残っているのがホンダのフィットです。フィットは発売前にホンダのテストコースでも試乗したのですが、実際に家に乗って帰ったりして使ってみると、その使い勝手などがよくわかるものです。
そうしたなかで、今回はちょっとダッシュボードまわりだけに注目した話をしたいと思っています。
クルマの魅力はエンジンだとか、足まわりだとか、ボディのデザインの美しさだとか……いろいろ言われます。確かにそれらも大きな魅力です。私もそうしたところに魅力があるクルマが大好きです。しかし、クルマというのは乗ってしまうと目に入るのは目の前のダッシュボードばかりです。クルマに乗っている限り、ドライバーはダッシュボードを見続けるわけです。
クルマのデザイナーはあの手、この手でダッシュボードをデザインします。スポーツカーならかっこよく仕上げるでしょうし、コンパクトカーならシンプルに、女性ユーザーを重視するクルマなら優しさと楽しさを盛り込みます。
そうしたなか、ホンダのフィットのダッシュボードデザインにかなり感動しました。なによりシンプル、そして使い勝手と拡張性の高さへのこだわりです。フィットのダッシュパネルは上部がフラットで広いデザインです。最近のクルマとしてはかなり珍しいタイプのデザインです。
私がこのデザインに対して好感をもった大きな理由のひとつがその拡張性の高さです。たとえナビがインダッシュで装備されていたとしても、レーダー探知機やスマートフォンなどダッシュボードに取り付けたいグッズはたくさんあります。それらにオンダッシュタイプのナビを装備するとなったら、なおさらです。
しかし、今どきのデザインのダッシュボードは複雑なデザインだと、それらを配置するのはなかな難しいものとなります。これだけの広さとフラットさがあれば、オンダッシュナビ、レーダー探知機、スマートフォンをきれいに配置することができるでしょう。
ただ、気になったのは助手席にエアバッグが装着されること。エアバッグの展開によって危険な状態となる場所には、それが明記されたほうがいいでしょう。
このダッシュパネルを見ていて思ったのが、初代シビックのダッシュボードです。初代シビックのダッシュボードは2段式で、手前下段が長細いテーブルのようなデザイン、奥の上段もフラットな形状でした。もちろん、当時はナビもレーダー探知機もスマホもありません。
せいぜい、トランジスタラジオを置くとかぐらいの使い勝手だったのですが、「この部分の使い方はユーザーに任せる、だから使い勝手をよくする」というのは、実用車の作り方としては当然なのです。トヨタのプロボックスもかなり実用性を重視した設計ですが、ここまで思い切ったことはしませんでした。
そもそもホンダ躍進の原動力となった2輪のスーパーカブも、それまで左レバーで操作していたクラッチレバーを無くすために遠心クラッチという機構を採用しました。なんで左レバーを無くしたかったか? それはそば屋さんや寿司屋さんがおかもちや出前桶を持ちながらできるよう、つまり片手運転をできるようにするのが目的だったのです。ど根性ガエルの梅さんも出前桶を持って、片手で運転しています。
今ならこんなコンセプトは開発段階の会議でNGでしょうが、当時はこれが求められたのです。すべてはユーザーのために……このスピリッツは今もホンダのDNAの中には息づいているのだと感じます。
(文/諸星陽一)