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■本来は交通事故被害者救済に使われるはずのものなのだが…
●財務省、3年連続の返済
2020年度の予算案が20日の閣議で決まった。交通事故被害者救済などの費用となる自動車安全特別会計が一般会計に貸し付けた元利合計約6121億円のうち40億3000万円が返済される見通しだ。
この特別会計の財源は自動車ユーザーが支払った自賠責保険料と保険料の運用益で、主な財源が税収である一般会計とはまったく違う。国土交通省が財務省との協議で、この保険料などを「一般会計への繰り入れ」という形で最初に貸し出したのは1994年のことだ。同年に7800億円、次年度に2910億円を追加貸出した。そして、今でも元利合計約6100億円が返済されていない。
来年度予算案に盛り込まれたのは、この約6100億円の貸金の一部返済だ。
約1兆円の貸付金の返済は財務相と国交相の覚書で先送りされていた。2003年度以降は0円返済だった。2018年、15年ぶりに返済が再開され、今回で3年連続の返済になる。
●返済は継続されたが…
この秋、国交省と財務省の予算折衝を前に、交通事故被害者家族や自動車関係団体が集まる「自動車損害賠償保障制度を考える会」が両省に対して確実な返済を求めた要望を行った。この要望に応じた赤羽一嘉国交相は約40分間、被害者の声に耳を傾けた。大臣に対する要望は数多く、異例の長時間だ。
また、麻生太郎財務相も閣議後会見で「引き続きこういったものは継続していく。来年度予算にもきちんと対応させていただきたい」(12月3日)と、話している。
自賠責保険料などの返済は、2018年度から再開された。折衝を前に返済なし、という危惧は関係者からは払しょくされた。問題は返済額だった。
2018年度から再開された返済は、23億円(18年度)、37億円(19年度)、40億円(20年度案)と増額されている。しかし、返済すべき全体額からすれば余りにも少額だ。前述の考える会は「このままでは返済までに200年かかる」と危機感を募らせていた。
財務省に貸し付けた資金は、交通事故被害者救済に使われるはずのものだ。自動車安全特別会計は、これらの資金をいわば基金として運用して、自立的に被害者救済を行っている。
ところが、予定通り返済されないために基金として残しておくべき費用を取り崩して使わなければならない状態だ。これは事故被害者への保険金支払いとはまったく別の費用だ。現状で基金となるべき積立金は1650億円しかない。その積立金から今年度は143億円が後遺障害者の治療や事故防止キャンペーンなどの費用として使われている。返済は継続されているが、それでも年々積立金が減っていく。
少しでも多くの返済が望まれるのはそのためだ。
●前年度より1億円だけ少なくなる決着
では、なぜ40.3億円の決着なのか。国交省保障制度参事官室は、こう説明する。
「今年度の(積立金からの)取り崩し額は79億円でした。来年度40.3億円が繰り戻される(=返済される)ことで1億円、取り崩し額が少なくなります」
今年度/来年度の収支内訳はこうだ。
被害者救済費用=143億円/144億円
雑収入=10億円/10億円
運用益=16億円/16億円
返済額=38億円/40億円
取り崩し額=79億円/78億円
それぞれの金額を億単位に揃えて、支出が約1億円増えて、返済額が約2億円増えるため、取り崩し額が1億円少なくなる。それが返済額の根拠というわけだ。同室によると、仮に毎年40億円が返済されるならば、財務省への貸付金総額は「増えない」レベルになる、という。
自賠責制度を考える会は、予算案の閣議決定を受けて次のようにコメントした。
「戻しと繰戻額の増額を求めてきた要望に沿う結果。また、療護施設の拡充等が認められるなど、交通事故被害者の救済事業の充実が図られたことなどで、交通事故発生防止対策が充実した」
ただ、その一方で残る貸付金が返済されない不安を隠さなかった。
「この積立金が枯渇することのないよう、一般会計に貸し出された6000億円を超える繰入金が、国土交通大臣と財務大臣の合意通り早期に返済されることを強く求めていく」
(中島みなみ)