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■適切なタイミングで点火プラグの火花を飛ばす
●高負荷時にはノッキング対策も必要
ガソリンエンジンは、火花点火によって混合気が着火して燃焼が始まるので、点火時期がその後の燃焼に大きな影響を及ぼし、出力や燃費、排出ガス特性を決定づけます。
燃焼のトリガーの役目を果たす火花点火システムと制御について、解説していきます。
●火花点火システムの概要
点火制御の役割は、シリンダー内で圧縮された燃料と空気の混合気を着火燃焼させるために、適切なタイミングで点火プラグの火花を飛ばすことです。
運転条件に応じた最適な点火時期と通電時間をECUで演算し、クランク角ベースの点火信号を点火装置に出力します。点火信号を受けた点火装置は、コイルとイグナイタによって発生する高電圧を点火プラグの電極間に印加して、火花放電を発生させます。
火花点火によって混合気が着火すると、発生した火炎は燃焼室内を広がりながら燃焼します。燃焼によってシリンダー内の圧力は上昇しますが、燃焼圧力のピークが上死点後クランク角で10°前後で最も燃焼効率が高くなります。
このときの点火時期はMBT (Minimum Spark Advance for Best Torque)と呼ばれます。MBTは、運転条件によって変化しますが、出力と燃費が最も向上するので通常は極力MBTになるように点火時期を設定します。
●点火制御
点火時期は、効率の良いMBT設定が基本ですが、高負荷運転時にはノッキングが発生するので、ノッキングが発生しない範囲で点火時期を進めて出力を確保します。一方、ノッキングが発生しない低中速負荷運転時には、燃費と排出ガスのバランスを考慮してMBT近傍に設定します。
ベースとなる点火時期は、エンジン回転数と吸入空気量で決まり、ECUにあらかじめ点火時期マップとしてプログラムされています。これに運転状況に応じて、エンジン水温や吸入空気温度、EGR量などを考慮した補正を加えて、点火時期が決定されます。
点火時期による制御は非常に応答性が良いので、その特徴を生かして各種の車両制御と組み合わせて活用しています。
●ノック制御
高負荷条件では、混合気温度が上昇し、ノッキングが発生しやすくなるのでMBTよりも遅角させて設定します。
できる限り高出力と低燃費を確保できるように、ノッキングが発生しないギリギリの点火時期に設定するのがノック制御です。
ノック制御のためのノッキング検出は、シリンダブロックに取り付けたノックセンサーで行います。ノッキングで発生する振動は、エンジンボアの大きさで決まるので特定周波数帯の振動を検出することによって、ノッキングの判定ができます。
ノッキングの強度によって点火時期の遅角量を決めて、ベースの点火時期を補正します。
●ノッキングとは
ガソリンエンジンの燃焼は、点火プラグの火花をトリガーにして、火炎伝播によって混合気を燃焼させます。空気量が多い高負荷域では、シリンダー内の混合気温度が上昇し、火炎伝播が到達する前に混合気が自着火して、激しい異常燃焼、ノッキングが発生します。
ノッキングは、不快なノック音だけでなく、最悪の場合は急激な燃焼温度上昇によってエンジンを破損させる可能性があります。
ノック制御が開発されてない頃は、点火時期はエンジンの個体バラツキや環境変化の影響を考慮して、大きなマージンをもって点火時期を遅角側に設定していました。その分、大幅な出力と燃費の低下を招いていましたが、ノック制御の採用によって出力と燃費を大幅に向上することができました。
本来は、ノック制御が必要ない、ノッキングが発生しないエンジンを開発するのが理想ですが、これは非常にハードルの永遠のテーマです。
(Mr.ソラン)