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■ガソリンエンジンの欠点であるノッキングを回避する
●2018年、日産が初めて実用化
かつて夢のエンジンと呼ばれた可変圧縮比(VCR)エンジンが、2018年春に日産によって実用化されました。圧縮比を、運転条件に応じて自動的に最適化することによって、低燃費と高出力を両立する画期的なエンジンです。
日産が実用化に成功した可変圧縮比エンジンを例に、その仕組みや効果について解説していきます。
●圧縮比を可変にすると何が良いのか
圧縮比とは、「シリンダー内の空気または混合気(空気+燃料)が、ピストン上昇によってどれくらい圧縮されるのか」の割合を示す指標で、次の計算式で表されます。
圧縮比=(燃焼室容積+排気量)/燃焼室容積
圧縮比が高いほど、エンジンの熱効率は向上します。熱効率が高いということは、燃費と出力が向上します。
しかし、ガソリンエンジンでは圧縮比を上げると、高負荷運転でノッキングが発生しやすくなります。したがって、通常は最もノックしやすい条件で、ノックしない範囲でできるだけ高い圧縮比に設定します。
一方で、一般路走行の部分負荷条件ではノックしにくいので、本来はもっと高い圧縮比に設定するのが理想であり、最適な圧縮比ではありません。
この問題を解決するのが、可変圧縮比です。可変圧縮比機構によって、低負荷~中負荷運転では圧縮比を高く、ノックが発生しやすい高負荷運転では圧縮比を低く設定します。運転条件に応じて、自動的に最適な圧縮比に設定することによって、燃費と出力の両立が実現できます。
●日産の可変圧縮比(VCR)機構
過去にいくつかのVCR(Variable Compression Ratio)機構が提案されましたが、機構の複雑さや耐久性の問題から実用化された例はありません。
実用化された日産のVCR機構は、圧縮比の変更をピストンの上死点高さの変化で行います。上死点とは、上下運動するピストンの最上点のことで、圧縮行程中のピストンがより高い位置まで圧縮することで圧縮比は上昇します。
この機構を実現するのが、独自に開発した複合リンク方式です。ピストンを支持し、クランクの回転運動をピストンの上下運動に変えるコンロッドの代わりに、3本のリンクをモーターによって巧妙に動かし、ピストンの上死点高さを連続的に変更します。
●日産VCRの効果
日産は、2018年3月北米向けのインフィニティのクロスオーバーSUV「QX50」搭載の排気量2.0Lのターボエンジンに、VCR機構を採用しました。
ターボエンジンは過給している分ノックしやすいため、無過給エンジンに比べて圧縮比を下げる必要があります。したがって、VCRの効果がより大きく発揮できます。
ノックしない一般路走行などの低~中負荷運転では、燃費を良くするため高圧縮比14に、ノックが発生しやすい高負荷運転では、ノックが発生しないように低圧縮比8とします。その間の領域の圧縮比は8~14の間をシームレスに変化させます。
すべての運転領域で最適な圧縮比に設定できるVCRのメリットを生かし、熱効率は40%を達成し、従来エンジンに比べて燃費が27%向上したと発表しています。通常は圧縮比が低く、熱効率の低いターボエンジンにとって、熱効率40%は驚異的に高い数値と言えます。
●VCRには別の方法も
欧州メーカーは、リンク機構でなく、コンロッド長さを調節する手法によってVCRを実現しようとしています。近々に実用化されるという情報もあり、今後欧州から追随するメーカーが出てくると思われます。
自動車メーカーが考えるエンジンの熱効率向上のシナリオの中で、最も注目されているのが可変圧縮比エンジンと、HCCI(予混合圧縮着火)エンジンです。
かつては夢のエンジンと言われていた革新的な技術が実用化レベルになってきました。EV時代の到来といわれて久しいですが、内燃機関も負けずに進化し続けています。
(Mr.ソラン)