●攻めれば楽しいのだが、もう少し落ち着き感のあるハンドリングがほしい
「Z」の車名が冠されるBMWは、ロードスターシリーズの証です。今回試乗したZ4は、トヨタスープラと基本コンポーネンツを共有するという、BMWのシリーズとしては珍しい成り立ちを持っています。
Z4は全長4335mm、全幅1865mm、全高1305mmのワイド&ロー、そしてショートなボディを持っています。ホイールベースは2470mmでトレッドはフロントが1595mm、リヤが1590mmです。初代と2代目(先代)のホイールベースは2495mmですので、ホイールベースは短縮されたことになります。これは最近の傾向としては珍しいことです。S13シルビアのホイールベースが2475mmだったので、最近の傾向、そして車格を考えるとかなり短いことがわかります。
一般的にホイールベースが長いと直進安定性が向上、短いとキビキビしたハンドリングが可能となります。最近の傾向としてはホイールベースを長くして安定性を確保したうえで電子制御系などでキビキビさを与えるのですが、Z4はその逆でキビキビしたハンドリングを基本に持ちながら電子制御で安定性を向上させるようなアプローチです。
しかしさすがに限界がある感じがします。試乗したモデルが340馬力の最高出力を誇る3リットル直6ターボです。パワーがあればあるほどホイールベースの長さが欲しくなるもので、いくらアダプティブサスペンションがあっても追いついておらず、全体として落ち着き感がない印象です。
エンジンは軽快に吹け上がり、低回転から高回転までしっかりとトルクが付いてくるタイプで、BMWらしい気持ちのいいエンジンに仕上がっています。組み合わされるミッションはコンベンショナルなトルコンタイプの8速ですが、スパスパと機敏にアップ&ダウンしてこれもまた気持ちいいのです。
ただただワインディングを攻め込むだけならなんの文句もないセッティングです。ショートサーキットなら楽しい走りができることでしょう。しかし、このZ4は835万円のプライスが付けられたロードスターなのです。
この価格だとジェントルという要素が盛り込まれないとちょっと物足りない感じがしてしまいます。この手のロードスターだと攻めるというよりも、太陽の光をたっぷり浴びながら走りを楽しむことも大切だと思うのです。
(文/写真・諸星陽一)